ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡の観測データで正体が明らかに。
宇宙の遠くに存在する鮮明な銀河群「ステファンの五つ子」を2台の望遠鏡で解析したところ、銀河(とその中の水素ガス)がどのように相互作用しているのか詳しくわかったのです。
この五つ子銀河のうちの1つが、他の銀河のパーソナルスペースに急速に侵入し、秒速約500マイル(秒速約800キロメートル)の衝撃波をその侵入域に発生させています。最近、研究チームは、雲同士の激しい衝突、尾を引く星系や矮小銀河が形成されている可能性を発見しました。
夜空で接して見える5つの銀河系
ステファンの五つ子銀河は、夜空でとても接近し合って見える5つの銀河系です。そのうちのひとつの銀河は私たちから見て手前にありますが、他の4つの銀河とは相互作用していません。地球から約2億7000万光年も離れたところにあり、昨年7月12日に初めて公開されたウェッブ宇宙望遠鏡の画像でもその様子がうかがえます。
五つ子銀河は、地球上と地球から100万マイル(約160万キロメートル)離れた場所にある大型天文台2カ所で観測されました。チリにあるアルマ望遠鏡(ALMA、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、五つ子銀河から放射される電波を観測しています。また、ウエッブ宇宙望遠鏡は燃料の消費を最小限に抑えながらL2という宇宙空間で、赤外線や近赤外線で五つ子銀河を観測しました。
宇宙望遠鏡が撮影した画像を研究
ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した五つ子銀河の画像は、1億5000万ピクセルに相当するとても詳しいデータなので、遠方にある五つ子銀河の様子がよくわかります。アルマ望遠鏡の画像は、研究チームが特に科学的な視点で注目した五つ子銀河のある領域に焦点を当てたものです。
この観測結果は、一面に広がる合成画像と、銀河系内の活動のホットスポットを示す詳細画像(上の画像)です。この成果は、1月9日に開催された米国天文学会での記者会見で発表されました。
低温の水素ガスが乱流を生み出している
「ステファンの五つ子銀河同士の物質中の衝撃波は、私たち地球のある天の川銀河と同じくらいの冷たい分子ガスを形成していて、予想よりもずっと遅い速度で星を形成しています」
パリ天体物理学研究所の研究者でこの研究の共同研究者ピエール・ギヤール氏は、NRAO(National Radio Astronomy Observatory、アメリカ国立電波天文台)のリリースで語っています。
「この銀河にある物質がなぜ不毛なのかを解明するのは、我々天文学者にとって本当に難しいこと。激しい乱気流や冷たいガスと熱いガスの効率的な混合の役割を理解するには、さらなる研究が必要です」
カリフォルニア工科大学の天文学者で、この研究の共同研究者であるフィリップ・アップルトン氏は、記者会見で「謎は部分的には解けました」と言っています。
「ステファンの五つ子銀河間物質は一様ではなく、暖かいガス、冷たいガス、電離したガスが複雑に混ざり合っていることがわかりました」
ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡で同時に観測撮影すると、銀河の中の高温と低温の水素ガスがどのように相互作用し、どうやって銀河の縁に長い尾を引くような新しい銀河規模の構造を生み出しているのかがわかります(ウェッブ宇宙望遠鏡の観測は高温の水素分子の研究に有効で、アルマ望遠鏡は低温の水素を観測するのに適しているからです)。また、アルマ宇宙望遠鏡の観測により、この冷たいガスがいかに乱流であったかを示す運動学的なデータも明らかになりました。
ひとたびウェッブ宇宙望遠鏡の新しい画像が公開されると、私たちは何度もその画像を楽しめます。さらに後日、研究者が宇宙の謎を解明する手がかりをつかむデータを精査するチャンスも手にすることもできるなんてロマンがありますね。