Getty Imagesとアーティストの集団がStability AI、Midjourney、DeviantArtを訴え、AIテクノロジーの今後のあり方が問われています。以下、米ギズモードによる解説です。
画像でも文章でも、AIが生成したコンテンツが急速に身近になってきました。いったい著作権はどうなっているのか? 皆さんも気になりますよね。
人工知能(AI)を使った画像生成ツールを構築するとき、エンジニアはアルゴリズムをトレーニングします。そのとき使うのは、写真や絵画、グラフィックスの大規模なデータベースです。話題になっている画像生成AIのほとんどは、Webからコンテンツをスクレイピングしてそのデータベースを確保していますが、作品を制作したアーティストの許可を明確に取らないことも少なくありません。そうしたアルゴリズムが著作権法に違反しているのではないか――アーティストはそう疑い始めています。
なぜ問題視されているのか
法廷での判例はまだ出ていませんが、それも時間の問題でしょう。
AIアート業界では今、2つの訴訟が起きています。ひとつは米国のアーティストによるもの、もうひとつは英国のGetty Imagesによるもので、AI画像生成ツールが膨大な量の画像を盗用し、知的財産権を侵害しているという訴えです。これを皮切りに、AIテクノロジーの将来を左右する訴えが今後も押し寄せるかもしれません。
サンフランシスコでは、Stability AI、Midjourney、DeviantArtがそれぞれ開発したAI画像生成ツールをめぐって、3人のアーティストが集団訴訟を起こしました。Stability AIは、英国のGetty Imagesによる別の訴訟の対象にもなっています。
「AIによる画像制作は、アーティストの権利を侵害するだけではない。『アーティスト』という現実的なキャリアパスを消滅させるものだ」。アーティスト側を弁護するJoseph Saveri Law Firmは、このように申し立てています。
Getty Imagesの供述は、AIについてそれほど辛辣ではなく、「人工知能は創造的な活動を刺激する可能性を秘めている」と述べています。それでも、同社の訴えはほぼ同じです。AIは「自社だけの商業的利益を目的に、ライセンスをめぐるさまざまな選択肢と、長く続いてきた法的保護をないがしろにしている」とGetty Imagesは述べています。
AI画像生成ツールは、自分たちのスタイルを露骨に模倣しているように見える画像を吐き出している、と多くのアーティストが苦言を呈しています。Getty Imagesの主張も同様です。なかには、生成したグラフィックスの中にGetty Imagesのウォーターマーク(透かし)が入っている画像もあり、そのアルゴリズムで同社の知的財産がいかに大きな比重を占めているかが一目瞭然だといいます。
「これをフェアユース(公正利用)ではないと考える人がいるとしたら、この技術を理解していないし、法律を誤解している」。Stability AIのスポークスパーソンは、アーティストによる集団訴訟を受けて、こうコメントしています。一方、Getty Imagesによる訴訟については、関連書面が届いていないというためコメントは控えるとのことでした。MidjourneyとDeviantArtにもコメントを求めましたが、今のところ回答は届いていません。
さらに訴訟が広がる勢いも見えているので、これは、長期にわたる法廷闘争の幕開けにすぎない可能性もあります。米国の法廷は企業の目標に有利な方向へ傾くものと思われがちですか、どちらの側にも、大手の企業が関わっています。今のところ、オリジナル作品を含む巨大なデータベースがAI画像生成ツールの土台になっても、その作品の所有者は補償されていませんし、それどころか交渉もされないのが現状です。
AIコンテンツ生成ツールは、人間の営みをかなりの部分まで置き換える可能性があり、すでに多くの企業が、生身のコンテンツ制作者に代わる安価な、あるいは無料の手段としてAIツールに注目しています。たとえば、メディア企業のCNETは何カ月か前に、ChatGPTが書いた記事の掲載に踏み切りました。
一人ひとりのアーティストは、お互いの作品からインスピレーションを受けて新しい作品を生み出します。集合的な思索の上に立って、繰り返し物事を積み重ねていく。そうやってアートは成り立っており、これはまったく合法的ですし、模倣が明らかなことも、なくはありません。問題は、AI画像生成ツールも同じことをしているだけなのか、それとも法律を破っているのかです。
画像生成ツールは違法なのか
双方ともに、もっともな言い分があります。
AIがデジタルサイトで一連の画像を生成させるときには、いわばコンピューターを使って人間の思考プロセスを再現し、古い文化的コンテンツからの学習に基づいて新しい文化的コンテンツを創造しているのだとも言えます。
一方、こうしたAIツールはアーティストの作品をもっと直接的に利用しています。統計的な解析を通じて、ほかの人の作品を文字どおりモデルに組み込んでいるからです。
もっと端的に言うなら、AI画像生成ツールは自分たちのスタイルを露骨に模倣しているとしか思えない画像を吐き出している、というのが多くのアーティストの主張です。Getty Imagesの主張も共通しています。AI画像生成ツールのなかには、生成するグラフィックスの中にGetty Imagesのウォーターマークまで入れているものもあり、そのアルゴリズムに同社の知的財産がかなり使われていることは、あまりにも明らかです。
この問題は、すでに法律の場で争われている別の法律問題にも関わってきます。アンディ・ウォーホル財団が訴えられている訴訟では、ウォーホルの作品が他の作家の写真をたびたび利用しており、それが著作権法に反するとされており、その訴訟について最高裁判所が判決を下すことになっています。争点となるのは、許可を必要としない範囲で、どの程度まで他人の知的財産を利用できるかという点です。裁判官は、2つのアート作品の間の類似性を判定しなければならず、芸術評論家の役目を迫られるかもしれません。
AI生成の画像をめぐる訴訟は、早くも、こうした倫理的および法的な問題点に対応しようとしています。Getty Imagesは、著作権上の問題を回避するために、AIで生成された画像を同社のプラットフォームで認めていません。
対照的なのが、Gettyと競合するShutterstockです。AI作品のライセンスは認めるが、ただしアルゴリズムに貢献した作品の作者にも報酬を支払うことを計画しています。DreamUpというAI画像生成ツールに作品が取り込まれてよいかどうかをユーザーに選択してもらっている、DeviantArtのようなケースもあります(ただし、DreamUpはStability AIが開発したStable Diffusionというツールを利用しています。そして、このツールは著作権者による明確な許可を受けずにスクレイピングした画像をベースにしているため、結果的には、DeviantArtがユーザーの許可を得る仕組みも、Stability AIに対する苦情は考慮していないことになります)。