最初のドミノが倒れたと信じたい。
米国内務省は11月末、気候変動のリスクを避けるための移住資金として、3つの先住民グループに7500万ドル(約102億円)を拠出すると発表しました。
気候変動リスクを避けるための移住
ワシントン州とアラスカ州2つの合計3つの先住民グループは、洪水や浸食の恐れがある海岸や川岸から離れるための費用として、それぞれ内務省から2500万ドル(34億円)ずつを受けとることになります。これによって、コミュニティーは移住の第一段階で最も重要な施設を、より安全な場所に移転させることができます。このようなプロセスは管理撤退と呼ばれ、多額の初期費用はかかるものの、コミュニティーによっては気候変動への耐性を向上させる上で最もコスパが高い方法だとNew York Timesは報じています。この新たな資金は、超党派のインフラ法およびインフレ抑制法によって定められたものです。
先住民女性初の内務長官Deb Haaland氏は、プレスリリースで次のように述べています。
連邦政府は先住民の主権を尊重し、先住民コミュニティーを活性化させるという連邦政府の条約と信任に基づく責任の一環として、気候変動の激化と固有の影響から先住民を保護しなければなりません。彼らが新しい故郷で安全に暮らせるようにすることは、気候関連で最も重要な取り組みのひとつです。
アラスカ州ニュートック(ユピック)
海岸の浸食が急速に進むアラスカ州ニュートック村は、そんなコミュニティーのひとつ。2019年には、ナショナルジオグラフィックが洪水や浸食、永久凍土の融解によって、住居周辺の地面が海に崩れ落ちていると伝えました。ニュートックのJoseph John評議員は、New York Timesに「資金が提供されると知ったときは感動しました。私たちにとって非常に重要な決定です」と語っています。海岸線が毎年約20m後退しているニュートックにとって、これ以上ないタイミングでした。ニュートックでは2019年から一部住人が移住を開始していますが、資金不足で東奔西走していたので本当にいいタイミングですね。
環境問題への意識が高いファッション企業パタゴニアが、2016年から2019年にかけて気候変動の影響から移住を試みるニュートックの人々を追ったドキュメンタリーを公開しています。
アラスカ州ナパキアク(イヌイット)
アラスカ州2つめの先住民コミュニティーは、同州西部にある人口354人(2010年国勢調査)の小さな村、ナパキアク。こちらは年に8~15m進んでいるといわれるカスコクウィム川の浸食の影響で、井戸や住居、学校などの重要なインフラが脅威にさらされています。Washington Postは昨年、校舎に影響が出たために、仮設校舎を隣りに建てて授業を行なうことになった学校について報じています。
ワシントン州タホラ(キノールト・ネーション)
ワシントン州の太平洋とキノールト川に挟まれた地域にあるキノールト・ネーションが、連邦政府から資金提供を受ける3つめの先住民コミュニティー。彼らが暮らすタホラは、高潮と洪水のリスクが高くなっています。移住計画を進めていますが、資金の調達にずっと頭を悩ませてきました。移転には1億500万ドル(約145億円)の資金が必要とのことなので、2500万ドルではまだ全然足りないんですよね…。
8つの先住民コミュニティーに移住計画準備資金
これら以外にも、連邦政府はカリフォルニア州のユーロクやメイン州のパサマクォディ、アリゾナ州のハバスパイを含む8つの先住民コミュニティーに、将来的な移住や気候変動への適応資金として500万ドル(約6億9000万円)ずつを提供するそうです。
移住までの長い道のり
先住民コミュニティーは移住をすることで海面上昇や洪水などの気候変動による差し迫った脅威から解放されますが、長いケースだと代々1万年以上住み続けてきた土地を離れるストレスは想像すらできません。移住先を決めるのに何年もかかるかもしれないですよね。オバマ政権時代の2016年に、連邦政府から州経由で4800万ドル(当時の為替レートで約54億円)の資金を勝ち取った(競争率が超高かった)ルイジアナ州のメキシコ湾にある小さな島で暮らすIsle de Jean Charlesは、今年になってやっと住民が移住を開始しました。
内務省によると、今年1月28日現在でアメリカには574の先住民コミュニティーがあり、人口は520万人にのぼるそうです。アラスカ州にある先住民コミュニティーの86%が気候変動に対して脆弱で、同州内だけで31の先住民コミュニティーが気候変動リスクを避けるために移住する必要があると連邦政府が認めています。アラスカだけでも移住が必要なコミュニティーが今回の10倍以上…。
今後、気候変動による移住を迫られる先住民コミュニティーの数も、緊急性も大きくなっていくと考えられる中で、連邦政府や州政府がどこまで資金援助をできるのか、先住民主導で移住が進むのか、取り残されてしまう先住民コミュニティーが出てこないのか、また、気候変動の原因をつくってきた化石燃料産業や企業の責任をどこまで追及できるのか、注視する必要がありそうです。
Reference: Patagonia / Youtube, Bloomberg, U.S. Department of the Interior Indian Affairs, U.S. Department of Health & Human Services, National Congress of American Indians, U.S. Climate Resilience Toolkit