「一番"英雄的な瞬間"を切り抜きだしてコンセプトアートに」 インド映画『RRR』の壮大な映像がどう生まれたのか監督に聞いてみた

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  • author 傭兵ペンギン
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「一番"英雄的な瞬間"を切り抜きだしてコンセプトアートに」 インド映画『RRR』の壮大な映像がどう生まれたのか監督に聞いてみた
Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

世界中で大きな話題となりついに日本に上陸したインドの映画『RRR』。今回は、映画『バーフバリ』に続き、想像を絶する凄まじいシーンの続く驚異的な映画を作り出したS・S・ラージャマウリ監督にインタビュー!

今作の脚本も担当した監督に、どうやって壮大なアクションシーンやストーリーを生み出していったのかなど、詳しくお話を伺ってきました。

Video: 株式会社ツイン/YouTube

──この映画は壮大なプロジェクトに違いないと思うのですが、完成までにどれくらいの時間がかかったのでしょうか?

S・S・ラージャマウリ(以下、ラージャマウリ):3年半ですね。ただ1年半はコロナの影響があったので、実際は2年くらいで作っています。

──インド映画史上最大の製作費の映画だったと言われていますが、そこまでの予算を集めるのは大変でしたか?

ラージャマウリ:幸いにして、自分が20年ほどやってきた映画は成功続きだったのでファンがいて需要があること、また予算も興行成績も毎回大きくなっていることが業界的に理解されていたので、予算集めには問題がありませんでした。

もちろん予算集めはプロデューサーの仕事なので、監督としてはプロデューサーが自分の生活を賭けて集めてきてくれたお金をどう使っていくかに責任を持たねばなりません。好きなようには使えないんですよ(笑)。

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Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

──最初に思いついたパートはどんな部分だったのでしょうか?

ラージャマウリ:ずっと主人公が二人の映画を撮りたいと思っていたので、始まりはそこからですね。特に二人の主人公の間の友情を描きたいと思っていました。それが決まってから、キャラクターの設定を考える中で、この映画の主人公でインドの独立運動家であるラーマ・ラージュコムラム・ビームがほぼ同時期に故郷を離れており、その時何をしていたが分かっていないということを知りました。

そりゃ最高だと思い、その二人の英雄を主人公にして、彼らがその時期に出会って友達になっていたという物語にしようと考えたのです。(歴史に残っていないところなら)物語の中で自由にできますからね。

Video: 株式会社ツイン/YouTube

──まるで絵画のように凄まじいアクションシーンがたくさんある映画ですが、一体どうやって生み出しているのでしょうか?

ラージャマウリ:アクションシーンは決まった工程があるわけでなく、いろいろな形で生まれるのですが、それでも必ず各アクションシーンはストーリーを語るものにしています。

なぜそのアクションが起こるのか、アクションの中で何が起こるのか、アクションが終わると次に何が起こるのかをストーリー面で考えてから取り掛かっています。言い換えれば、各アクションがそれぞれストーリーなのです。

また、アクションシーンを作る時には、そのシーンの中でも一番"英雄的な瞬間"を切り抜きだしてコンセプトアートにしています。この段階で衣装と照明などのディティールもつめています。そこから、その"瞬間"にどうやって繋いでいくかを絵コンテ(ストーリーボード)で作っていきます。

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Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

そしてアクションの振付師にはどんなアクションが欲しいかと、主人公がその時にどうあるべきかを伝えます。たとえば冒頭でラーマ・ラージュが群衆と戦うシーンでは、彼は群衆を殴りつけ、彼自身も殴られて血を流していきますが、怒りを群衆には向けません。そういったディティールを振付師には伝えています。

アクションシーンに限りませんが、何かシーンのアイデアを思いついたときは、私は必ず観客の目線に立つことにしています。そこで「うん、いいシーンだね」と思うようではダメなんです。観客が「すごい! 最高だ!」と反応できるものを目指しています。

それもあって、"すごい画"を目指します。しかし、その画も感情によって支えられていることが重要となります。画面でどんなにすごいことが起こっても、そこに感情がなければジョークになってしまいますからね。だから"すごい画"には、必ず強烈な感情が伴うようにしています

──音楽や踊りも大変インパクトがありましたが、監督が細かな指示を出すのでしょうか?

ラージャマウリ:それに関しては細かな指示は出していません。しかし、踊りが映画には欠かせないことはわかっているので、私が考えるのは物語上なぜ踊りが必要になるかです。そして作曲家にその物語を伝えて音楽を作り出してもらい、それを元に振付師が踊りを作っていくという形になっています。そして完成したものを私が確認し、変えてもらいたいところを指示して、完成させていきます。

──見たことがないような映画ではあったのですが、監督が今作を作る上で影響を受けた映画監督や映画はありますか?

ラージャマウリ:監督としてはメル・ギブソンですね。彼の『ブレイブハート』(注:イングランドの支配に立ち向かったスコットランド英雄を主人公とする映画)はお気に入りの映画で、影響を受けています。映画としては『ベン・ハー』や『グラディエーター』などの影響も受けていますね。

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Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

──史実の人物と叙事詩『マハーバーラタ』や『ラーマヤーナ』の登場人物が重なっていくというアイデアに驚いたんですが、どうやって思いついたものだったのでしょうか?

ラージャマウリ『マハーバーラタ』や『ラーマヤーナ』は私の作るあらゆるストーリーに根付いているものです。しかし今回の映画ではキャラクターが特に影響を受けています。

ただ、この映画のラーマの見た目は多くの人が『ラーマヤーナ』のラーマ王子をベースにしていると思っているんですが、実は実際のラーマ・ラージュの像がああいう見た目だったんですよ。大きな髭もラーマ王子にはなく、ラーマ・ラージュの特徴ですね。

インドは広い国なので、ラーマ・ラージュの姿を見て彼を認識できるのは(この映画で使われている)テルグ語圏の者かもしれませんがね(笑)。

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Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

──ちなみにインドではそういった叙事詩はどれぐらいポピュラーなものなんでしょうか?

ラージャマウリ:あらゆる世代の人たちが何らかの形で触れている物語と言ってもいいものだと思います。私は祖母からもらったテルグ語での本が最初でしたが、それからも家族みんなでその物語や登場人物の素晴らしさを語りあってきました。だから本を読んで終わりというようなものではなく、時間をかけて親しんでいくものだと思います。

多くのインド人たちも本で読んだり、祖父母たちから話を聞いたりする形で最初は触れていると思います。ただ、大枠のストーリーは知っていても、細かい部分は知らないかもしれません。本当に長く壮大な叙事詩ですからね。

──監督が映画を作り出す上で一番大事にしているものは何ですか?

ラージャマウリ:映画を作り出すためにはあらゆる部門が協力しなければならないので、特定の部分に強いこだわりを持つというのはあまり好ましくありません(笑)。

それでも私が大事にしているのは、ストーリーを頭の中で思いついたときに浮かんでくる感情で、それが映画から伝わるようにしています。そのためにも、繰り返しにはなりますが、あらゆる部門との協力が欠かせません。もしそれが上手く映画の中で表現できないときは、できるようになるまで何度も何度もやり直していきます。

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Image: ©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

──次のプロジェクトは計画中ですか?

ラージャマウリマヘーシュ・バーブ主演のアクション・アドベンチャー映画を計画中で、ちょうど一カ月前くらいから脚本に取り掛かっています。世界中を舞台にアクションをやっていく予定の映画で、日本での撮影も計画しています。また日本に来て映画を撮るのが今から楽しみですよ。

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Photo: ギズモード・ジャパン

映画『RRR』は現在全国公開中。

監督・脚本:S.S.ラージャマウリ

原案:V.ヴィジャエーンドラ・プラサード

音楽:M.M.キーラヴァ―二

出演:NTR Jr./ラーム・チャラン

原題:RRR/2021年/インド/テルグ語、英語ほか/シネスコ/5.1ch

日本語字幕:藤井美佳/字幕監修:山田桂子 応援:インド大使館 配給:ツイン

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Video: 株式会社ツイン/YouTube

Source: 映画『RRR アールアールアール』