研究者愛アツめ。
京都大学の研究者チームが、このたびイギリスの国際学術雑誌『Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom』にて論文を発表しました。
研究者たちの熱〜いまなざしが注がれたのがこちら、クシエライソメ。ミノムシみたいに巣を作り、その巣を引きずりながら海底を移動する小さなちいさな多毛類です。
京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所の山守瑠奈助教、京都大学人間・環境学研究科の加藤真教授、そして鳥羽水族館飼育研究部森滝丈也さんらの研究グループは、深い海の底に暮らすクシエライソメが陸上の森から流れ着いた落ち葉を巣材や食物として利用していることを解明し、いかに森の生態系が海洋環境にも影響を及ぼしているかを示しました。
クシエライソメってなに?
鳥羽水族館によれば、研究対象となったクシエライソメは、和歌山県から三重県にかけて広がる熊野灘の沖合で採集されたそうです。
当初はゴカイの仲間の「ノトリア属(Nothria spp.)」だとされていましたが、後にナナテイソメ科のクシエライソメ(Anchinothria cirrobranchiata)であることが判明。ナナテイソメ科は糖リン酸の糸を分泌し、枯れ葉などを使って筒状の巣を作る習性があります。
そこで、研究者たちが巣材に使われた落ち葉の種類と行動を詳しく観察したところ、クシエライソメは巣材に必ずタブやバリバリノキなどの照葉樹林の落ち葉を使うこと、そして巣材としてだけではなく食用としても利用していることがわかったそうです。
さらに今回採集されたクシエライソメの遺伝子情報を詳細に調べたところ、クシエライソメの所属するAnchinothria属の進化の過程もわかりつつあり、クシエライソメの仲間が巣を持ち運ぶという生態を獲得した背景をたどる鍵となることが期待されています。
クシエライソメ愛強めの研究者コメント

この研究に筆頭著者として携わった山守瑠奈助教は、クシエライソメについて以下のようにコメントしています。
「なんて可愛い多毛類なんだ」クシエライソメを見た瞬間、可愛さが全身を強打しました。小さな手(「疣足」と呼びます。イボと形容される多毛類の小さな足、もうその時点で可愛いですよね?)で落ち葉を掴んで口に運ぶ姿、落ち葉が運ばれる完全無欠の「ω」型の前口葉(口の上部にある組織)。可愛い、イソメの可愛さを伝えるのに文字数が足りない……という感情を心の内に仕舞って、陸上の森と深海の繋がりについて推していきたいと思います。
自らの研究対象をかわいいと思うその研究者心こそがかわいい……!!
森と海のつながりを推す
深海に生息しながらも巣材に落ち葉を用いるという特殊な生態を持ったクシエライソメですが、実は日本近海でのみ採集される稀少生物なのだそうです。
丘の上の森が減少すれば、とうぜん海底に流れ着く照葉樹林の落ち葉の量も減ってしまいます。もしそうなれば、クシエライソメにとっては同時に食料と巣材を奪われかねない事態に…。いかに森と海の生態系が繋がっているかを再認識させられる研究結果です。
イソメの存続のためにも、山守助教の今後の研究に期待がかかります。好きなことを仕事にできるのって、究極の幸せかもしれないですね。
Reference: 京都大学, Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 鳥羽水族館(1, 2)
Images: 鳥羽水族館