テキサス州真っ青。いや、真っ黄色。
先月発表された分析結果によって、現在稼働中の石油・ガス施設から0.8km以内に約400万人の子どもを含む1700万人以上のアメリカ人が住んでおり、健康の脅威にさらされていることが明らかになりました。分析結果と関連して公表されたインタラクティブな地図「Oil & Gas Threat Map」では、自宅や学校周辺にある石油・ガス施設の具体的なデータを確認できます。
石油・ガスの健康への脅威を可視化
米環境保護庁(EPA)が開発したこのツールは、石油・ガスの生産過程で排出されるメタンやその他の公害物質による大気汚染の規制を強化し、ガスの排気やフレアリング(遊離ガスを焼却する際にガス井の上部で発生する炎)などの一般的なガス生産技術にさらなる規制を課すために必要な付帯規則を策定する一環として発表されました。
ツールの開発に携わったEarthworksのJosh Eisenfeld氏は、記者会見で「この地図は、大気浄化法下での石油やガス由来のメタン削減と、化石燃料の採掘廃止に必要な規制を可能な限り強化するために、1700万人分の動機を大統領に与えると思います」と語りました。
日本の1.5倍の範囲で1700万人に影響が
今回の分析によると、健康に影響を与える恐れがあるとされる石油・ガス施設から半径0.8kmの総面積は55万1012平方キロ。これは日本の国土面積の約1.5倍にあたります。この範囲に推定で1729万5499人が住んでいるそうです。アメリカの人口の約5%ですね。うち、有色人種は572万3805人とのことです。また、学校1万2445校に318万5097人の生徒が在籍しています。
政策提言団体であるEarthworksとFrackTrackerによる地図とその元になった分析には、各州の政府機関から入手した2020年と2021年における石油・ガス井の位置や機材など、上流に区分される石油・ガス施設に関連するデータが用いられています。そして、そのデータと国勢調査局の人口統計を比較して、各施設の半径0.8km以内における人口や人種などを推定しました。また、教育省のデータから、範囲内にある幼稚園から高校までの学校数を算出したそうです。
研究者が「脅威の半径」と呼ぶ0.8kmという範囲は、出生異常や乳児死亡率、早産、血液疾患、がんリスク上昇などの健康への影響と石油・ガス採掘現場への距離に関連性があるという複数の分析結果に基づいて決められています。石油・ガスの生産過程で排出される大気汚染物質としてはメタンが有名ですが、ベンゼンのように血液疾患やガンなどのさまざまな疾病を引き起こす公害物質も含まれているんですよね。
米医師会会員でもあるテキサス工科大学健康科学センターのAnne Epstein教授は、「石油・ガス採掘現場周辺のベンゼン濃度はかなり高くなっており、ほとんどの市や州が定めた後退距離(健康への影響を避けるために必要な汚染施設からの距離)よりもはるかに離れた場所まで汚染は広がっています」と電話で答えてくれました。
事故以外の日常的な健康への影響はまだ不確か
重要な点として、石油・ガス施設から半径0.8km以内に住んでいるだけで、健康に影響するというわけではありません。0.8kmという「脅威の半径」は、石油・ガス施設からの距離が80m~3.2kmの範囲に住む人々に関する数々の研究から導き出されたとのこと。また、分析に用いた研究の多くは漏出や爆発などの事故に重点を置いています。施設の近くに住んでいるだけで日常的にさらされる大気汚染による健康への直接的な影響に関する査読済み研究はあまりないため、そこはまだ不確かなようですね。
圧倒的じゃないかテキサスは

実際に地図をチェックしてみると、テキサス州のパーミアン盆地やペンシルベニア、アパラチアなどにめっちゃわかりやすく施設が集中していて、なんだこりゃってなります。ニューヨーク市は黄色い半径の範囲外ですが、テキサス州を拡大すると、「脅威の半径」が折り重なって広い範囲に及んでいることに衝撃を受けます。
訳者が住んでいるテキサスでは、「脅威の半径」に該当する18万1000平方キロ(日本の国土面積の約半分)に526万人が住んでいて、うち有色人種は248万人。全米の影響を受ける人口に対する有色人種の割合(33%)と比較してみると、テキサス州は47%になり、石油・ガス施設周辺に有色人種がより集中しています。よく知られている典型的な環境正義問題です。範囲内の学校は3501校で、106万5521人の生徒が在籍しています。驚きなのが、ガス石油施設の数で、なんと51万! 全米で155万施設なので、約3分の1がテキサス州に乱立していることに。圧倒的じゃないか、わが州は…。ぴえん。
精製施設などの脅威は含まれていない
研究者は、上流の石油・ガス施設から241km離れた場所でも健康への影響が認められたケースもあるため、0.8kmを「脅威の半径」とするのは控えめなのだそうです。また、健康への影響が指摘されている、下流に区分される精製施設や休止中の油井・ガス井などの施設は今回の分析に含まれていません。ということは、石油・ガスによる健康への影響は、もっと広い範囲で多くの人、多くの子どもに及んでいるといえるでしょう。
ニューメキシコ州カールズバッドに住むコミュニティー・オーガナイザーのKayley Shoupさんは、電話インタビューでこう話しています。
「これは一般市民が情報を集めるための素晴らしいツールだと思いますが、あらゆる分野のリーダーによる情報の活用がどれだけ重要かを改めて強調したいですね。危険にさらされていることを知った人々には、頼れるリーダー、頼れる場所が必要ですから」
石油やガスと聞くと、温室効果ガス排出による気候変動への影響が真っ先に浮かびがちですが、大気汚染による健康への影響や、それが有色人種などの環境弱者に偏っていることを考えると、気候変動関係なく脱石油・ガスを進めたほうがいいんじゃないかって思いますね。