太陽放射管理で地球を冷やすと、マラリアが増えるかもしれない

  • author Molly Taft - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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太陽放射管理で地球を冷やすと、マラリアが増えるかもしれない
Image: mycteria / Shutterstock.com

誰がリスクを背負うかによってやるかやらないかを決めそうな予感しかしないので、やっぱりやめたほうがいいと思うのだけど…。

気候工学でマラリア感染リスクが10億人増加

新たな研究結果によると、大気中にエアロゾルを散布して太陽光を遮断する「太陽放射管理」を用いて地球の気温を下げようとすれば、10億人以上が感染症のリスクにさらされるなどの副作用を伴う恐れがあるそうです。

太陽放射管理は、気候工学と呼ばれる技術のひとつで、地球や大気を人工的に変動させることで温暖化の抑制を試みます。昔は現実味を欠く急進的なアイデアだったのに、気候変動対策が遅れて5年、10年と時間を無駄にしていく中で、少しずつ存在感が増してきました。

この研究の筆頭著者で、ジョージタウン大学医療センター助教授のコリン・カールソン氏は気候工学についてこう述べています。

気候工学は、温室効果ガスの排出削減の取り組みと並行して気候変動の影響を軽減するための応急処置と考えられています。そのアイデア自体は素晴らしいのですが、実際に命を救えるかどうかの検証は、十分になされていません

気候工学の公衆衛生への影響をより詳しく調べるために、研究では気温の変化との関連性が強く、開発途上国に深刻な健康被害をもたらすマラリアに着目しました。世界保健機構(WHO)によると、2020年におけるマラリア感染者の95%はアフリカ諸国の人々で、死者の80%を5歳以下の子どもが占めたそうです。

研究チームが気候モデルを用いて、中程度の排出量と高排出量のシナリオにおいて、気候工学を使った場合と使わなかった場合に、マラリア原虫とそれを媒介する蚊が最も発生しやすい温度と、異なる地域における感染者数を分析。すると気候工学を実施すればマラリアの影響を受けやすくなる地域と受けにくくなる地域が出てくることが分かったとのこと。

高排出量シナリオの場合、気候工学によって気温が急激に下がれば、マラリア感染のリスクにさらされる地域住民が10億人増えるそうです。もしかすると、気候工学によって気温を下げる地域を限定したとしても、広い範囲がマラリア感染に最も適した環境に逆戻りしてしまうかもしれないと。

マラリア感染者増のリスク覚悟で気候工学をやるべきか?

これがどんな影響をもたらすかを考えるには、マラリアについて少し知る必要があります。まず、人はメスのハマダラカ(蚊の一種)に刺されることで、マラリアに感染します。これまでの研究で、マラリアに最も感染しやすい気温は摂氏25度前後ということがわかっています。高排出量のシナリオだと、気温が上昇するにつれてマラリアのリスクが軽減する地域もあるそうですが、カールソン氏はこれを温暖化の恩恵と捉えるべきではないと指摘しています。そりゃそうですよね。気温が上昇すれば、マラリアのリスクが減っても、気象災害や食糧難、その他の健康問題などで生活に深刻な影響が及ぶ可能性はかなり高いです。そして、もしも温暖化が壊滅的な状況になってしまったら、そういったことを考慮に入れたうえで、マラリア感染者増のリスク覚悟で太陽の遮断を検討するべきかもしれないとのことです。

カールソン氏はこのようにも述べています。

世界の広範囲でマラリア感染リスクが大きくなるのを承知のうえで気候工学が実施されるかもしれないのに、世界規模の健康安全保障について計画が立てられていなさそうな現状を考えると、夜も眠れません。

気候工学のリスクはまだ未知の領域

この研究は、気候工学が壊れた世界を元通りにするための手段だと考えるのは単純すぎて危険だということを示しているといえます。だって、私たちは太陽を遮断することによって引き起こされるであろうさまざまな影響をまだ理解できていないんですから。太陽放射管理は、大気の状態を一律に変化させる技術ではありません。あくまでも局所的な影響を及ぼすに過ぎません。また、モンスーンのパターンを変えたり、気温を下げすぎたりする可能性だってあります。さらに、公衆衛生への影響については、ビックリするくらい研究されていません

カールソン氏は気候工学の問題点についてこのように話しています。

地域によってはマラリア感染のリスクが増えることも含めて、気候工学は新しい生活環境を作り得る選択であると言えるでしょう。でも、その選択の影響を受ける人々に対して、しっかりと説明責任を果たす必要があります。なぜなら、これは地球規模で起こり得るトロッコ問題なのですから。


ギズモード・ジャパンでも、この問題について何度取りあげていますが、時間がたつにつれて、ちょっとずつ実現に向かっているのかなという印象を受けます。「ジオエンジニアリング」「地球工学」「気候工学」と、メディアや専門家によっていろいろだった呼び方も、「気候工学」で落ち着いてきた感があります。

個人的には「なしよりのなし」から、ちょっとずつ「なしよりのあり」に変わりつつありますが、みなさんは、気候ハックあり?なし?