Ray-Ban Stories、Facebook感ゼロすぎて心配

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Ray-Ban Stories、Facebook感ゼロすぎて心配
Image: Facebook

オシャレなのはすごいけど…と。

Facebook発のスマートグラス、Ray-Ban Stories発表されました。ちゃんとオシャレなサングラスにカメラとかスピーカーが付いてるって画期的なんですが、逆にその分、米Gizmodoのウェアラブル番、Victoria Song記者は懸念があるといいます。どういうことなんでしょうか?


Ray-Ban Stories、レイバンなだけにスタイリッシュだし、カメラやスピーカー内蔵で、機能的にもよくある「スマートグラス」と同等です。最近のコンシューマー向けスマートグラスの作り手としては、Facebookは一番のビッグネームだし、モノとしてもベストなのかもしれません。でも、実際このFacebook版スマートグラスはすごくスマートってほどでもないし、Facebookが関わっていることで、スタイル以上に考えなきゃいけないことがたくさんあります。

外見はレイバン、中身はFacebook

Ray-Ban Storiesは299ドル(約3万3000円)ですが、そもそもあえて「Facebook」が名前に入ってないことが謎です。SnapのSpectaclesを2021年向けにアップデートしたみたいな仕様で、500万画素カメラが両サイドのヒンジにあり、マイクアレイが3つ、スピーカー内蔵、Bluetooth接続、そしてタッチパッドがあります。キャプチャしたコンテンツは何でもソーシャルメディアにアップロードできます。こういう製品は今までもたくさんありましたが、Ray-Ban Storiesの最大の特徴は、Facebookがバックにいるってことです。

Ray-Ban Storiesには、少なくとも外見にはFacebookの名前がまったく入ってません。デザインは3種類ありますが、どれもレイバンのアイコニックなウェイファーラーというモデルをアレンジしたもので、Facebookロゴはどこにもありません。ロゴがあるのは箱だけです。街中でこのメガネをかけてても、誰も気に留めないはずですが、それでもFacebookのDNAはしっかり埋め込まれています

まずRay-Ban Storiesを使うには、Facebookアカウントが必要です。これは、Facebook傘下に入ったOculusのVRヘッドセットと同じです。何かを記録したいときの音声コマンドは「ヘイFacebook」、記録したコンテンツを取り込むアプリはFacebook View、という具合。つまりRay-Ban Storiesは、外見はレイバンでも、中身はFacebookなんです。そしていつでもどこでも、誰にもそれと知られずに使えます。

プライバシーに配慮とは言うものの

Facebookはプライバシーに関して警戒されている自覚があるので、「プライバシーに配慮してます」と自分から一生懸命アピールしてます。専用Webサイトまで作って、何ができて何ができないかをまとめてます。以下、ざっくりその内容です。

・写真や動画のインポートに使うFacebook Viewは、スタンドアロンアプリ

・コンテンツはデバイス上で暗号化される。

・コンテンツ記録中は、白いLEDライトが光って周囲からも見える。

・記録する中身は広告のパーソナライズに使われない。ただし、それを他のアプリにアップロードした場合のプライバシーは、アップロード先アプリの規約に依存する。

・「キャプチャするイメージ数、動画撮影時間、動画の長さの平均」といったデータを共有するかどうか、オプトインで選べる。

・メガネをなくして第三者が使おうとした場合、記録してあったコンテンツはすべて削除される。

・デバイスには電源スイッチがある(これ、シリアスに「プライバシー保護」の一環なんです。「すぐにオフにできます!」っていう)。

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Image: Facebook

FacebookはRay-Ban Storiesの開発にあたってプライバシー団体や専門家からも監修を受けたそうですが、彼らからのフィードバックがすべて反映されたわけじゃないとのこと。さらにNew York TimesのRyan Mac記者がTwitterで指摘してるんですが、Facebookのスタンスを擁護してる「プライバシー専門家」は、Facebookが資金提供する団体に勤務してます。だからプライバシー対策は万全なんですが、問題はそれだけじゃありません。ここでいう「プライバシー」とは、主にRay-Ban Storiesユーザーのコンテンツのプライバシーを言ってるんですが、じゃあそのコンテンツに記録される他の人のプライバシーとか権利はどうなのか?というと、それはまた全然別なんです。

撮られる人のプライバシーは性善説頼み

Facebookとしては、キャプチャボタンを押すために手を上げる動作や、音声コマンド、白いLEDライトの点灯などがあれば、周りからも「何か撮ってる」ってわかりますよね?という姿勢です。Ray-Ban Storiesのサイトでは、周りの人の意向を尊重し、法令を遵守し、更衣室とか公衆トイレみたいなセンシティブな場所では使わないように言ってます。LEDライトを隠すのは、利用規約で一応禁止してます。

こういうお願いとか規約は性善説に基づいてますが、マナーとかルールとか人の気持ちとか、軽く扱う人って必ずいますよね…。それにRay-Ban Storiesに関する複数記事で、LEDライトが見えにくいとか、暗すぎると言われてます 。つまり他人に気づかれずに動画を撮るのは、すごく簡単なんです。

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周りの人のプライバシーは、ユーザーの自主性とか常識次第
Image: Facebook

また逆に、Ray-Ban Storiesを理由に誰かから攻撃されたとしても、ユーザーを守るものは何もありません。2014年、とあるバーにGoogle Glassをかけた女性客が入ったところ、プライバシー侵害を恐れる別の客に暴行される事件がありました。New York Timesでは、前出のFacebook寄りプライバシー専門家Jeremy Greenberg氏が、Facebookは「他のスマートグラスの過去の失敗を甘く見てはいない」し、「かつてのスマートグラス出始めの時代と比べて、プライバシーに対する社会の想定は変化している」とも言っています。

でも、変化したんでしょうか? たしかにいつどこで撮られてるかわからないってことは、みんなある程度認識しています。現代社会に生きるってことは、スマホとかカメラとかデバイスの網の目から距離を置かない限り、完全なプライバシーはありません。だからって、プライバシーがなくていいと思ってるわけでもないです。

Ray-Ban Storiesのプロモーション動画で、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが、LEDライトはスマホで撮影してるとき以上に周りからわかりやすいと言ってますが、それはミスリーディングです。だってスマホにはカメラが入ってることをみんな知っていて、それで何ができるのか、こっそり撮影するときはどんな動作なのか、無意識に覚えてます。でもRay-Ban Storiesは、普通のサングラスとほとんど見分けが付きません。やましい目的で使いたい人なら、使えてしまいます。さらにいえば、隠し撮り以外にも悪用の方法はあるはずで、何ができるのかはFacebook自身も把握・想像しきれていません。

どんなに気休めを言ったって、プライバシーの心配は消えないし和らぎもしません。よっぽどの文化的なシフトがない限り、こういうメガネを安心して受け入れられないんじゃないでしょうか。つまり、みんなのプライバシーと引き換えにしてもいいと思える利便性なり快適性なり、何らかの理由が必要になるはずです。

Ray-Ban StoriesはARグラスじゃない

そういう意味では、スマートグラスでMRショッピングや風景に情報が重なるやらバーチャルミーティングやら、そういうことができるのならまだ希望があるかもしれません。でもRay-Ban Storiesには、そこそこのカメラとスピーカーがあるだけです。FacebookがARの夢を語るとき、それはRay-Ban Storiesの話じゃありません

技術的には、ちゃんと使えるARグラスはもう実在してます。でもたいていは法人向けで(Google Glass Enterprise Edition 2とか)、個人向けはMagic LeapとかMicrosoftのHolo Lensとか、あってもまだ実験的です。ARグラスが個人向けに普及しないのは、普通の人がスマホじゃなくARグラスを使うと良いことがある、と示せたプレイヤーがいないからです。

ただしBose(ボーズ) Framesは数あるARグラスの中で一番興味深い存在でした。カメラはなく、オーディオオンリーのARアプリの中で有意義な生態系をもっていました。でも発売から1年後、ボーズはAR部門を閉じてしまいました。NorthのFocalsも、ARでテキストメッセージ通知をしたりUberを呼んだりナビしたりといった良い機能を持ってましたが、結局失敗に終わりました。

コンシューマー向けARの夢は遠く

問題はこれらガジェットが現代の生活に入り込めてないことです。しっかりしたアプリの生態系もありません。メガネ越しの風景の上に情報を被せるにはネット接続が必要で、それには結局スマホのテザリングが必要になり、スマホあるならメガネ要らなくないか?となります。スマホなしで使えるスタイリッシュなスマートグラスをどうすれば作れるか、誰かが編み出すにはまだ時間がかかりそうです。技術的にも、たとえばディスプレイした画像が環境光で薄くなってしまう問題はまだ解決できていません。

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Image: Facebook

よっぽどレアな状況じゃない限り、現状のARグラスよりうまく機能するものが他にあります。インフルエンサーが移動中にクールな動画を撮ったりするかもしれませんが、GoProでもそれはできるし、画質もそっちのほうが良いです。GoProは持ち運びもしやすく、メガネより扱いも楽です。GoProじゃなくても、ほとんどの人にはスマホで十分です。ARでの通知は最初は便利に感じても、すぐ飽きます。スマートウォッチなら通知の処理がメガネよりスムースにできて、メガネほどうっとうしくもありません。オーディオスマートグラスに関しては、ヘッドホンの代替にできるって主張もできますが、バッテリーは1日持たないし、音質もそこそこです。ある程度のノイキャンイヤホンのほうが、安いしパフォーマンスも良いです。

みんなが夢に描くようなARグラスを手に入れられるまでには、まだまだ無数のハードルがあります。Ray-Ban Storiesも、ARの良さを伝えるためのデバイスじゃありません。楽観的な人なら、「ARの未来に向けたブリッジ」とか言っちゃうかもしれないし、懐疑的な人なら、「社会を常時オン・常時録画のコンセプトに誘い込もうとしてる」と言うかもしれません。何しろFacebookは、メガネに顔認識を入れたらどう?とか考えてた人たちなので、我々としては大船に乗ったつもりで、そんな未来を待望するしかなさそうです。

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