コンセプトモデルそのままの市販化は市場にどんなインパクトを与えるのか。デジカメの歴史書が作られるなら、コイツのことは記すべきでしょう。
手のひらサイズで光学400mmズームからの800mmデジタルズームで、遠くにある景色を手に取れるかのような位置にまで引き込めるキヤノン「PowerShot ZOOM」。異色のカメラとして発表されてから1年が経ちました。
単眼鏡のような覗き込むスタイルの超望遠カメラとしてクラウドファンディングで先行販売し、11月からは一般販売された同モデル。当時は期待値高きニューカマーとして待望されていましたが、発売後にその空気感がトーンダウンしちゃった。

その理由は、画質です。ぶっちゃけ、こいつが書き出す写真の質は良くない。近年のスマホカメラの圧倒的補正力の進化と比べて、既存の格安コンデジ級の画質では戦力になりません。酷評されるのもわかる気がする。

他にも三脚穴がない、EVFオンリーなのに大型液晶モニタ向きの設定UIなど、作り込みが甘くてあちらこちらにツッコミポイントがあるモデルでした。購入したはいいもののがっかりした方も多かったようで、僕の友人も「最初に試して以来、箱にしまったままだよ」と話していましたっけ。
でもいちユーザーとして思うのは、ポケットサイズのカメラなのに望遠で遊びまくれるモデルはコイツだけじゃないかってこと。

1/3インチセンサーは今どきのスマホカメラのセンサーより小さいし、ベース性能も低くてバンディング(縞模様)は盛大に現れる。レンズの性能も低くて、大気の揺らぎを受けにくいだろうという気象状態でも像が揺れる。てかAF仕事しろ!そして三脚穴がないのはマジ致命的だな! 400mm光学ズーム時の手ブレ補正がしっかりとしているぶん、他のダメなところが目立つカメラではあります。

でもね。目の前の遠くの遠くに、なんだか面白い造形があるなと感じて秒撮できるのは、マジでコイツだけだと思うんです。例えばこの写真、撮りたいなと思って撮影が終わるまで3秒くらいだった。
一眼+超望遠レンズの組み合わせや、ソニーRX10IV、ニコンP1000といった超望遠コンデジ?だったら、バッグから取り出して電源入れてモード決めてファインダーを向けてズーム調整してシャッターボタンを押すまで、まあ30秒はかかるでしょう。
Zoomという言葉には拡大/縮小という意味だけではなく、急速といった意味もあるみたい。そう考えるとPowerShot ZOOMの価値は、ちょっぱや望遠撮影スキルにもあるんじゃないかって思えてきます。自分で買ったモノを正当化したいバイアスかかってっけど。

改めて記しますが、画質という一点を最重要視する方にはマジでおすすめできない。

でも近所に富士見スポットがあるなら、その1点だけで買ってもいいとおすすめしたい。

これは京王線の幡ヶ谷駅-笹塚駅の間にある歩道橋から撮った写真だけど。

渋谷区から富士山をこうも巨大に撮れるだなんてすごくない? えっ、ここ富士宮市か裾野市か御殿場市か富士吉田市か鳴沢村あたりだっけ。まあ出力された写真は「これ水彩画?」と思えるもんだけど。
ガチカメラ機材を抱えてんじゃなく、余計なモノはあまり持たない散歩スタイルで富士山シューティング。これ、楽しいです。

コイツのズーム力は、あまり密な場所まで入り込みたくないときにも効きます。

400mmを片手で持てて、しかも手ブレ補正もしっかりと聴く。こんなデジカメはじめてでしたよ。

塗り絵っぽさが気になるなら、最初から塗料厚めに塗ったモノを撮ればいいじゃない。もしくはLo-Fiで気楽な気持ちよさにひたればいいじゃない。高画素高画質なカメラがもたらすHi-Fi写真とは別の魅力がありますから。


夜間撮影ばかりはどうしようもないけど、ね。そういえば最近、低画質画像をAIでブラシアップするアプリやサービスが増えてきたけど、ああいうヤツで補正かけたらどうなるんだろ?
自分の気持ちと時間をつぎ込んだ作品となる写真を撮るには不向きです。いうて、3万円台の超望遠コンデジ。カメラ性能そのものは1万円台のコンデジ級だと考えるべきですから。
反面、画像メモなクオリティでも思い立ったそのときに撮りたいという欲求があるなら、PowerShot ZOOMはお手元に控えさせてもよきカメラ。今見たら実売価格が3万円を切ったし、買いごろかもしれません。
でも三脚穴がなあ...3Dプリントで底面部のアタッチメント作って1/4インチのナットを埋め込むかな...。
Source: キヤノン