「バーチャルの世界は、クリエイティビティに影響してる」ポーター・ロビンソン主催オンラインフェス『Secret Sky』インタビュー

  • author Sachiko.T
「バーチャルの世界は、クリエイティビティに影響してる」ポーター・ロビンソン主催オンラインフェス『Secret Sky』インタビュー
Photo: Porter Robinson

リアルをしのぐ、バーチャルでの感動。

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)拡大を理由に、各国の音楽フェスが今年の開催を見送るというニュースが目に付く2020年。ただ、フィジカルな体感や感動を得ることが難しい世界でも、「新しい体験」に希望を感じることはちゃんとできます。

秋葉原MOGRA主催『Music Unity 2020』や、ライゾマティクスの『Social Distance Communication Platform』などのオンラインイベントでは、配信で映えるビジュアライズやバーチャルならではのコミュニケーション法など、新たな時代の潮流が感じられました。そしてこのタイミングで、日本のカルチャーを愛する音楽プロデューサー、ポーター・ロビンソンがオンラインフェス『Secret Sky』を開催

今回ギズモードでは、6年ぶりとなるニューアルバム『nurture』発売決定のニュースも届いたばかりの彼に、オンラインで取材する機会に恵まれました。期待を超えるオンラインフェスの背景やクリエイティブについての思いをたっぷり聞いてきましたよ。

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Photo: ギズモード編集部

──あなたのいる場所は、今どんな状況ですか?

ポーター・ロビンソン(以下、ポーター):いまは地元のノースカロライナにいるんだけど、COVID-19騒動以降ずっとここにいるよ。自宅には音楽スタジオもあるしね。僕がCOVID-19が勢いを増したなって感じたのは、トム・ハンクスが感染を発表して、NBAのシーズンがキャンセルになった3月下旬のある水曜日。その2日前に『Something Comforting』を出したところだったんだけど、その前後で世界が一変してしまったことで、自分の曲が違うふうに聞かれるようになったんだなって、はっきり覚えてるよ。

──どのように変化したんでしょう?

ポーター:ちょっとした例だよ。『Something Comforting』のMVでは、全体的に真っ暗な空間で、僕のいる半径1mくらいだけに草が生えてて、花を植えたり水をあげたりしてるんだ。これを観たみんなが「あつ森だ!」って言いはじめたんだけど、そのMVは『あつまれ どうぶつの森』が発売になる前に作っていたものなんだよね(笑)。 人ってやっぱり、その時代に影響を受けてモノを見るんだなって思わされたよ。

自分の曲は、個人的・精神的な内容がメインで、社会的・政治的なメッセージは入れてない。僕は、音楽制作って、世界で何が起きてるかより、自分はどうしたいのかとか、自分自身の悲しみやネガティブをどうやって乗り越えられるかみたいな、内面性を表すものだと思ってるから。

ただ、COVID-19騒動以降は、そんなことで曲を書いてる自分が、ちょっとちっちゃいなって思えてしまうところもあってさ。僕はもともと自己批判しすぎてしまうところもあるから、自分に何が起きようと、全世界的な視点で見ると小さいことなんだって自分自身に言い聞かせてもいるんだけどね。

Porter Robinson / YouTube

──オンラインフェス『Secret Sky』の話も聞かせてください。まず、どんなきっかけで思いついたのですか?

ポーター:いろんなアーティストが、カジュアルにオンラインで配信ライブをやってるのを見てて、「僕もやりたいな」って思って準備は始めてたんだけど、同時に、毎年自分が主催してたフェス『Second Sky』を、今年どうするか決断しなければならないタイミングでもあって。だったら一緒にしちゃえばいいんじゃないかなって思ったのが、簡単ないきさつ。

──フライヤーでも『Secret Sky』の世界観が表われていたと思うのですが、どのようなイメージで制作したのでしょう?

ポーター:パフォーマンスするミュージシャンたちを、匿名的なアバターとして見せてる。「彼らは小さな島に閉じ込められているけれども、一緒に集まって、美しいものを創造できるんだ」と表現したかったんだよ。

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──YouTubeやTwitchの配信でDJパフォーマンスを繋いでいくだけでなく、デジタルオーディトリアムを使い、各自がアバターを得て、ほかのオーディエンスと共にバーチャル空間で戯れているような体験がとても革新的でした。

ポーター:アルバム『nurture』のウェブサイトも、空間を大切にしたものなんだ。世界中からそのウェブサイトにアクセスしている人とランダムにペアを組んで、一緒に音楽を体験する仕組みになってるんだよ。音楽フェスのマジカルな要素と同じように、音楽体験って誰かと共有するのが大切だと思うから。そこからデジタルオーディトリアムのアイデアに発展したんだ。

バーチャルな世界ってリアルな世界と違う行動をとるし、最近はとても対立構造が多いよね。SNSとかさ…。だから、ウェブの中での空間に広がりを持たせて、さらにアバターを使うことで「実体のある自分が、その空間にいるような感覚」を強めたかったんだ。その方が、言葉とかアイデアだけを発信するより新しい体験になって、ウェブ上でとる行動が変わるんじゃないかなって。

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バーチャル空間では、色とりどりの線がアバターとなり、人々の集まりが可視化された。右下に、DJプレイするポーターの配信映像が映る。
Photo: Porter Robinson

今回のデジタルオーディトリアムの開発を手がけたActive Theory社が、Twitterでハイライトを投稿している。


──アバターは、ちょっと変わった形状でしたね。ぐにゅぐにゅした虫(Worm)のような…(笑)。

ポーター:『nurture』のキャンペーンで、白く細い線を視覚的モチーフとして多く使ってたんだ。僕にとって、その落書きとか走り書きみたいなイメージの線たちは「楽しさや伸びやかさ、子供らしい感じ」といったクリエイティビティのさまざまな面を表しているように思えた。Wormのようなアバターのアイデアは、そんな線に象徴されるところから来てるんだ。

Porter Robinson / YouTube

──日本からもkz(livetune)、長谷川白紙、キズナアイが参加しましたね。

ポーター:自分にとって一番大事なのは、観客が誰を観たいかじゃなくて、自分が呼びたい人とフェスをやりたいってこと。自分のライブをやってるときも、みんなが何を聴きたいかちゃんとわかってるけど、あえてそこは外して、自分が好きな曲とかみんなに知ってもらいたい音楽を紹介するようなやり方をしてるしね。

だから、今回の出演者も、そんな目線で声をかけたんだよ。キズナアイは、僕なんかが紹介するまでもなく知名度は高いんだけど、バーチャルフェスにバーチャルキャラクターを招聘するのっておもしろいんじゃないかなと思って。

──パフォーマンスでは、マデオンはCGで分裂し、kzは光の粒子になるなど、それぞれの方法でビジュアル的な演出を行っていましたね。

ポーター:出てくれたみんなが、それぞれたくさん考えていろんな努力をしてくれたのがなによりうれしいよ。僕、もともとアーティストが自分の好きなことに対して愛や情熱を燃やしているのを見るのがすごく好きだから、14時間まるまるそれを感じていられて、ずっと楽しかった。

パフォーマンスがはじまる前に、アーティスト同士がどういうことをやるのかは全然話してなかったんだ。だから、自分のパフォーマンスに関しても、めちゃくちゃ考えて自信満々で準備してたんだけど、実際にフェスがはじまってほかのアーティストのパフォーマンスを見たとき「あ…やばい、僕ちょっと準備足りなかったかも」って思っちゃったくらい(笑)。

Madeon / YouTube

──日本でもオンラインフェスが盛り上がりを見せていたタイミングで『Secret Sky』開催が発表になったので、そのときから「ポーターがやるなら、きっとおもしろいことをやってくれるはず」と期待してたんですよ。

ポーター:そんな風に言われると、無事フェスは終わったのに、改めて緊張しちゃうね(笑)。僕ももちろん『Music Unity 2020』は観てたよ。インスピレーションのひとつに、あのフェスもあるんだ。『Music Unity 2020のkzのセットがものすごくエネルギッシュで素晴らしかったし、曲をドロップするたびにみんながチャットでものすごい大騒ぎになってて(笑)、こういった熱量って、すごく“今”だなって実感した瞬間でもあったんだ。だからこそ、kzは絶対に『Secret Sky』に呼ばなきゃって思ったんだよ。

みんな知ってると思うけど、僕は日本の音楽が大好き。そこからすごく影響を受けてるし、今回のパフォーマンスにも日本の音楽を取り入れてるから、日本でも #secretsky がトレンド入りしたって聞いてすごくうれしかったよ。

──ご自身のパフォーマンスでは、背景にプロジェクターで映像を流していましたね。映像は、リアルでもアニメーションでも、空、月、木漏れ日や花など自然をモチーフにしたものが多い気がしましたが、意図的なものですか?

ポーター:そう、Nature=自然は、大きなテーマなんだ。アルバムのタイトルは『nurture』だけど、英語では「Nature vs. Nurture」って表現があって、つまり「もって生まれたもの(Nature)か、経験で身についたものや環境で作られたものか(Nurture)」ってこと。英語だとこのふたつの言葉は対になってるから、言葉遊びみたいなところもあるかな。

このアルバムは自分にとって、憂鬱感やクリエイティブにおける葛藤を乗り越えていくというテーマが盛り込まれてるんだ。たとえばDNAみたいな持って生まれたもの(Nature)は変えられないけど、自分自身のものの捉え方は変えていけるよね。今回、アルバム制作の入り口ではネガティブな感情に満ちていた自分が、それを乗り越え、希望に変えていくことが大事だったんだよ。

自分にとってNatureは「自然」「健康」「希望」のイメージで、「あるべき姿」「正しい姿」でもあるし、このアルバム制作によって、自分の精神面、フィジカルの健康さ、そしてなによりクリエイティビティを掴むことができたから。

──DJセットのラストは、そのアルバムの中から、新曲『Look At The Sky』でしたね。

ポーター:アルバム制作中はメンタルがとことん落ちてって、悲しみに浸ってて、希望がまったく持てなくて。曲は書き続けてるんだけど、その原動が喜びやクリエイティビティへの探求心じゃなく、「今までよりできる」と自分に証明したいってことばかりになっちゃってた。作曲中も全然楽しむことができない状態で、できない自分に焦ってまたできない、みたいな悪循環。

曲作りもルーティーン化してしまってたから、それを変えるために別の場所に移ってみたんだよ。2017年に2カ月間、恵比寿にスタジオを借りて、そこでようやく完成したのが『Look At The Sky』なんだ。

自分が学んだことは、勇気をもってリスクを負っていいものを作って、でももしそれが失敗しても、「それでも大丈夫なんだ」と思えるメンタリティにまで自分を持っていくことだったんだと思うよ。

──今回のDJセットは、アニソンはもちろん、宇多田ヒカルのトラックにマデオンのライブ音源を乗せるような、日本のアニメやカルチャーが好きなポーターらしいセットだったと感じましたが、選曲や繋ぎ方に驚きもありました。

Porter Robinson / YouTube

ポーター:そうだね、自分で今聴いても充実できるセットリストになってるなと思うくらい、本当に自分のかけたい曲をかけた感じ。今回のDJセットは、アルバム『nurture』の影響も受けつつ、僕なりにダンスミュージックを取り入れた感じかな。僕は、EDMもかけてないし、パーティ的なセットじゃないから、自分はあんまり「DJの定義」にハマってないなと思ってる。ただ、この前Twitterで「僕はEDM?」って聞いたら、75%がYESだったんだよね…うーん、世間のイメージとのギャップがあるんだなぁって思ったよ(苦笑)。

そんなわけで、普段はそんなにダンス系のものはかけないけど、今回は情勢もあるから、楽しい音楽が必要とされてるかなって思ったんだ。今回のセットのなかに、ラッパー・Lil Bの「Porter Robinson」というフレーズが出てくる曲があるんだ(笑)。いつもだったらきっと僕はかけないんだけど、今回は「入れたらみんなちょっと笑ってくれるかな」って思ったから、かけてもいいかなぁって。

『Secret Sky』全体のイメージとしても、なるべく心地よい空間を作りたかったんだ。僕も、友達やガールフレンド、両親を呼んで集まって、窓には毛布をかけてプロジェクターに映像を写して、リラックスして楽しんだ。なんだかパンデミック以降、初めてゆったりくつろげた瞬間だったなって思うよ。

──コロナ禍において、元の生活ができない閉塞感、あるいは元の生活と同じ状態を維持したい欲求に意識が向きがちな今、「新しい試み」に意識を向けた出演者が多かったように思います。

ポーター:COVID-19は間違いなくたくさんの人に苦しい状況をもたらしている。 でも、ひとつ、少しだけいい面があったとすれば、アーティストにとってライブストリーム上でどうやってパフォーマンスをすればいいのかを、クリエイティブに考えられる機会を加速させたところだと思う。今はみんな、よりユニークなもの、よりクオリティの高いものを作りたくて情熱を燃やしてると思う。僕自身も、そういったところは意図したところだったから、 『Secret Sky』が終わった後、なんで今までやらなかったんだろうなって思ったし、隔離期間が終わったとしてもこのフェスは毎年続けていくべきだと強く思ったよ。

もちろんリアルなイベントでは、リアルでしかできない体験がある。騒音や、知らない人の間をかきわけていくような、ちょっとしたエキサイティングしたムードとかね。でもオンラインにだって、リアルにない良さがあると思うんだ。『Secret Sky』では、世界中の人がひとつの瞬間を共有することができた。僕らは、現実のアリーナには入りきらないような人数の前でパフォーマンスする機会を得られたし、それはすばらしいことだと思う。

──たしかに、リアルな世界でのフェスやイベントなどは、まだ当分厳しそうですね。あなたは今後どんなふうに過ごしていく予定ですか?

ポーター:いつになったらリアルなフェスやライブができるかはいつも気にかけてるし、またオンラインフェスが開催されて打診されたら出てみたいなって思うけど、今の心境としては、一日一日をよく考えて、バランスのとれた日々をきちんと進めていく感じかなぁ。

『Secret Sky』は、とっっっても準備が大変だったんだ。「新しいプロジェクトやってみない?」って言われて「おもしろそうだな」って思っても、自分の性格上、やりはじめるとのめり込みすぎちゃうところがあるから、「もしやるとしても数週間はとられちゃうんだよ」って自分自身に認識させてからスタートしないと大変なことになっちゃう(笑)。あと、『Secret Sky』には全身全霊をかけて、セットリストも命をかけて作ったから、次に何かやってって言われても、まだちょっと何も出てこないかもね…(笑)。

──ちなみに、先日Spotifyで、プレイリスト「Gaming Together」を発表されましたね。ゲームはいま何をプレイしてますか?また、オンラインのつながりが重要になったいま、ゲームの世界観に何か変化を感じていますか?

ポーター:こんな時期だからいっぱいゲームやってるだろって思われてるかもしれないけど、実はそんなにやってないんだ(笑)。でも、たぶんその質問と似た文脈で、ちょっとおもしろいトピックスがあるから共有するね。VRヘッドセットを使って、VRChatの世界に飛び込んだときの出会いの話。とてもインスピレーションを受けたから、YouTubeでもコンテンツとして公開してるよ。

VRChatの空間で、僕の大ファンだといってくれる子に出会ったんだ。名前はPHIA(フィア)。彼女はVRワールドにとても精通していたから、VRツアーに連れて行ってもらったんだよ。ジブリの世界観や、『Serial experiments lain』の世界観を表したバーチャルの空間を体験させてもらった。そこには僕自身の音楽の世界観を表現した空間もあるんだよ! たとえば僕の名前のロゴをくぐり抜けてみたりして。すごく感動したよ。

とにかく彼女のVRワールドに対する情熱がすごいんだ。彼女は『Second Sky』の初年度に参加して、それによって情熱が湧き上がってきたけど、それをどうしたらいいかわからなかったんだって。その後、Vtuberの存在を発見して、それの英語版をやってみようと思いたったらしく、そこに情熱を注ぐことにしたんだって。Twitchで配信をやったりYouTubeに投稿したりしてるんだけど、とてもカリスマ性もあるし向いているんだよね。

Porter Robinson / YouTube

──バーチャルの世界であった出来事やそこで出会った人々が、実際のあなたのクリエイティビティに影響しているんですね。

ポーター:絶対的にそうだね。実際、12〜13歳のとき、インターネット上にガールフレンドがいたし。バーチャルの世界のなかで学んだことや体験したことは、現実の僕にとっても、すごく意味のある人生に残ることだよ。実際に会ったことない人や本当はどんな人かわからないような人もいたけど、大事な記憶がいっぱいあるよ。

懐かしいな…当時、2002年~2003年くらいの、日本でよく使われていたグラフィックスタイルとかが、今でも大好きなんだ。チラシとか、アーケードゲームに貼られてるステッカーとか、学生が持つようなノートとかに使われているような感じのもの。デザインとして英語のテキストとかも乗ってるんだけど、意味はめちゃくちゃで全然読めないような感じのやつ(笑)。当時の東京に行って、コンビニの雑誌をのぞいたり、広告を観てみたり、ゲーセンに行ったりして体験してみたいって、今でも夢見てるよ。その愛が高じて、『Secretsky』にも影響が出てたかもね。それに、そういうアートワーク、最近けっこう目にすることも多くなってきたと思わない? たとえばレディー・ガガのアルバムもそんなイメージをうけるんだよね…あ、なんか関係ない話になっていっちゃった、ごめん。

──いえいえ、あなたのクリエイティビティの片鱗が見えて興味深いです。

ポーター:よかった。今までは、近い美意識を持ってる弟とこういった話をよくしてたんだけど、彼、いま東京で暮らしてるんだよね。なかなかこんな話をする機会もなくなっちゃったから、つい…(笑)。

Porter Robinson

Something Comforting』『Get Your Wish

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