89秒に注いだ情熱。BOOM BOOM SATELLITES中野が『PSYCHO-PASS』リミックスを語る

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  • author 北口大介
89秒に注いだ情熱。BOOM BOOM SATELLITES中野が『PSYCHO-PASS』リミックスを語る
Photo: 小原啓樹

作り方を知ると曲への関心が倍増。

人気アニメ『PSYCHO-PASS』の劇場版『PSYCHO-PASS Sinners of the System』。

『Case.1 罪と罰』『Case.2 First Guardian』『Case.3 恩讐の彼方に__』の三部作で2019年1月25日から公開されましたが、この主題歌/エンディングテーマをBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんが手がけました。

と言ってもオリジナル曲が書かれたわけではなく、テレビシリーズの主題歌/エンディングテーマとして人気の高かった凛として時雨の「abnormalize」EGOISTの「Fallen」「All Alone With You」「名前のない怪物」のリミックスを中野さんが制作し、それを劇場版の主題歌/エンディングテーマとしたんですね。なるほど、これはクールなアプローチ。スピンオフ的な劇場版のイメージにぴったりのコンセプトです。

聴いてもらうと分かりますが、オリジナルの良さを生かしつつ、新しい魅力が引き出されていて…すごくいい感じです。

今回、中野さんにインタビューするチャンスをもらったので、プライベートスタジオにおじゃまして、その作り方を教えてもらいました。オリジナルバージョンと聴き比べながら読んでもらうと面白いかも。

テンポの決定に1日かける

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Photo: 小原啓樹

── 中野さんはこれまでにもいろいろなリミックスを手がけていますが、今回の作品はどんな気持ちで臨んだのですか?

中野雅之さん(以下、中野):今回は、原曲にものすごく思い入れのあるファンがいることが前提としてあって、その曲を久しぶりに、しかも劇場で聴けることへの期待に応えなければならないという部分が大きかったので、歌モノとして聴きたい人たちのために作りました。DJ向けに作るリミックスとはまったく違うアプローチで、リミックスという言葉自体も当てはまらない感じ。リプロダクションというか、その曲を再構築したものというふうに考えています。

── どんな点を意識して作りましたか?

中野:叙情的な曲が多かったので、メロディの良さをよりエモーショナルに引き出していくような、歌い手のパッションがより広がっていくようなアレンジを施そうと考えました。オリジナルと違う方向でそれが引き出せたらファンにも面白く聴いてもらえるだろうと。

── 作業はどう進めていったのですか?

中野:まずは、仮のビートを当てがって数種類違ったテンポでメロディを聴いてみて、どんな感じになるかアタリをつけるのにだいたい1日使いますね。

── テンポの決定に1日!

中野:ここは大事なんです。そして翌日、気持ちが素の状態で聴き比べてみて、一番良いと思われるものを選びます。曲が始まったときの雰囲気とか、体のなじみやすさとか、今回は歌モノなので歌を気持ち良く追っていけるかとか。

テンポが決まったら次はコード進行を考えます。原曲を愛してやまないファンにとっても、楽曲を制作したアーティストにとっても、新鮮に思えたり、もう1回好きになれたりというものを目指してコード進行を再構築していきます。

── コード進行も変えるのですね。

中野:世界観を再提示するために変えるという理由もありますし、原曲とは使う楽器も違ってくるので自ずと変わってきますね。例えば、凛として時雨はスリーピースのロックバンドなので、循環コードを繰り返し演奏することが楽曲の温度を上げていくのに直結するんですけど、違う楽器でやった場合、単調になってしまうことがあります。このあたりは、楽器に触っていけば自然と展開が見えてきます。

── 世界観の再提示はリミックスの醍醐味でもありますね。

中野:そうですね。例えば、EGOISTの「All Alone With You」の原曲はピアノを中心としたロックバラードですが、『PSYCHO-PASS』の世界観に合う都会的なハーモニーをつけて、R&Bとビートミュージックを融合させたようなテイストにしました。

SFの世界観が浮き彫りにする人間の存在

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Photo: 小原啓樹

── 先ほど『PSYCHO-PASS』の世界観というお話がありましたが、制作を進めている間は常に作品の世界観を意識しているのですか?

中野:意識していますね。今回の場合は、過去のテレビシリーズはすべて見て、劇場版の脚本も読んで、自分なりに世界観を汲み取った上で、自分ができる提案をしていきました。

過去にも映像作品に楽曲を提供したことがありますが、自分の作風と映像作品のテイストが一致しないと思われる場合でも、成功させる方程式のようなものが何となく自分の中にあって。例を挙げると、『ガンダムUC -episode5-』のエンディングテーマを手がけたとき、僕たち(BOOM BOOM SATELLITES)は英詞のバンドで、邦楽的なテイストのものが多かった『ガンダムUC』シリーズの中で、ちょっとサプライズというか、いつものエンディングとは違う感覚が起こせるなと考えました。映像作品との絡みは常にあったので、そういう感覚が自分の中で培われていて、今回もその感覚を駆使しました。

── 『PSYCHO-PASS』は「人間の心理状態を数値化し管理する近未来」という設定ですが、そこから中野さんが汲み取ったものは?

中野:得体の知れない存在が社会を支配しているというストーリーはアーサー・C・クラークの時代から脈々と続いているものだと思いますが、それを人間に取り戻すための葛藤や戦いという話は僕にとってはロマンチックなものです。SFは、今の社会ではない社会で人はどう感じて何を目的に生きるのかを描くことによって人の存在を浮き彫りにするもの。そこが僕にとってはグッとくるポイントで。今回はその感覚をフル活用した感じですね。音楽というのは映像の解釈を何倍にも広げてくれる力があり、それを純粋に楽しめました。

「89秒」にどう対峙したか

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Photo: 小原啓樹

── アニメ作品ならではのエピソードはありますか?

中野:1曲の長さが「89秒」に設定されていました。これはテレビのアニメ番組でオープニングとエンディングに設定される長さなのですが、放送上の縛りがない劇場版でもその文化の中で作りたいという制作者の意図があったのだと思います。

昔のアニメには「89秒」の縛りはなかったと思いますが、いつしか固定化されていった。これには功罪あって、アニメの主題歌に採用されるとヒットするということもあり、短い時間の中で何展開もするような性急な音楽がたくさん生まれ、日本の音楽のガラパゴス化につながったところはあると思います。ただ、その枠の中で、いかに性急なだけでなく音楽的な豊かさを持たせて、聴く人のイマジネーションや感動をより拡張するかというチャレンジもできる

── それと関連しているか分からないですが、『PSYCHO-PASS』自体も、既存の深夜アニメの枠から飛び出そうとする作品でした。

中野:既存の枠の中でどんな志が持てるか。その大きさによって飛び出すときの飛距離が出ると思うんですよね。僕も同じ感覚で、「89秒」の縛りはあるけれども、その中から飛び出す何かの飛距離をどう出すかということを考えます。お仕事ではない何か、情熱みたいなものを注ぎ込んだときに大きく飛び出してくるんだと思う。これは「89秒」システムに限ったことではなくて、どんな制作にもフォーマットは存在するので、その中で自分はいかに志を持つか、聴く人により新しい体験をしてもらえるか、この世界に入ってからそのことをずっと考えながらやっています。

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Photo: 小原啓樹

さらに「いつの時代もルールは新しくできてくるし、人というのは縛られながら生きているものなので、その中でどう自由になるかとか、みんな考えていいことだと思う」と付け加えてくれた中野さん。リミックスの制作1つでも多くの思考を巡らせていることが伝わってきました。

今回の作品を収めた『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs + Dedicated by MASAYUKI NAKANO』は4月3日リリース。タイトルに「Theme songs+」とあるように、『PSYCHO-PASS Sinners of the System』では使われていない凛として時雨の楽曲「Enigmatic Feeling」「Who What Who What」、Nothing’s Carved In Stoneの「Out of Control」のリミックスも収録されています。楽曲に中野さんが込めたものをぜひ聴いてみてください。

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PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+
Dedicated by MASAYUKI NAKANO

初回生産限定盤(左)
CD+BD|SRCL-11073〜11074|5,184円(税込)
書き下ろし絵柄三方背ケース、スペシャルデジパック。スペシャルピクチャーブック、ポストカード付き。

通常盤(右)
CDのみ|SRCL-11075|3,132円(税込)
初回仕様限定盤はアニメ絵柄ワイドキャップステッカー付き。

1. abnormalize / 凛として時雨 - Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1〜3 の主題歌)
2. 名前のない怪物 / EGOIST - Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__ エンディングテーマ)
3. All Alone With You / EGOIST - Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian エンディングテーマ)
4. Who What Who What / 凛として時雨 - Remixed by Masayuki Nakano
5. Fallen / EGOIST - Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 エンディングテーマ)
6. Out of Control / Nothing’s Carved In Stone - Remixed by Masayuki Nakano
7. Enigmatic Feeling / 凛として時雨 - Remixed by Masayuki Nakano

[Extra track PSYCHO-PASS SS ver.]
8. abnormalize / 凛として時雨 - Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS ver.
9. Fallen / EGOIST - Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS ver.
10. All Alone With You / EGOIST - Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS ver.

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