IBMの新天気予報モデル、超高解像度の実現を理由にユーザーのスマホデータに手をつける

  • author Brian Kahn - Gizmodo EARTHER
  • [原文]
  • 山田洋路
IBMの新天気予報モデル、超高解像度の実現を理由にユーザーのスマホデータに手をつける
Photo: Getty

プライバシーと利便性はトレードオフが常。どうやら天気予報も例外ではないようです。

天気予報の世界では、数値予報モデルの優位性をめぐっての論争が繰り広げられていますが、焦点が当てられるのはだいたい、アメリカおよびヨーロッパの政府機関が管轄しているもの。具体的には、アメリカ海洋大気庁(NOAA)や欧州中期予報センター(ECMWF)のモデルなんかがそれです。

でもじつは数値予報モデルには他にもたくさんの選択肢がありまして、1月初頭にラスベガスで開催されたCES2019でもその候補となりうるモデルがお目見えしています。

各方面がざわつきそうな予感

IBMとその子会社The Weather Company(TWC)は、非常に詳細な天気予報を世界中に提供することを目的とした数値予報モデル「GRAF」を開発しました。このモデルの正確性が証明されれば、数値予報モデルの常識を塗り変えるやもしれません。とりわけ、データが不足していて予報がむつかしい開発途上国での活用は、インパクトが大きそうです。

ただこのGRAF、ひともんちゃく起きる可能性もはらんでいるんですよね。最近ロサンゼルス市が起こした訴訟で、適切なアナウンスのないままユーザーのデータを必要以上に収集していたとされている、TWCの「The Weather Channel」アプリ。そのいわくつきのデータを活用しているんです。

発展途上国の天気予報を大幅レベルアップ

グローバル高解像度大気予報システム(GRAF)という名のこのモデル、いくつかの特筆すべき点こそあれど、もっとも印象的なのはその解像度でしょう。ベースにしているのは、連邦政府から資金提供を受ける国立大気研究センター(National Center for Atmospheric Research)が開発したMPAS予報モデルです。

MPAS予報モデルのフレームワークと、瞬時にさまざまなことをこなす最上位クラスのスーパーコンピューターを駆使することで、アメリカのようなデータが潤沢にある地域では3kmの解像度で予報をはき出します。データがそれほど利用できない発展途上国では解像度を15kmに落として運用されます。そして、予報の更新は1時間ごとです。これに対して、ヨーロッパのモデルの解像度は一律9km、アメリカのモデルの解像度は13kmで、更新はどちらも1日に数回のみとなっています。

IBM/TWCで計算気象分析と予測を率いるTodd Hutchinsonさんは、米Gizmodoに対して「高解像度での稼動との目標には、発展途上国の天気予報のレベルを世界標準にまで引き上げることも含まれています」 とコメントしています。

まだぎこちない点も…

超高解像度により、GRAFは大気の詳細まで解明することができるほか、大きな嵐が来るかどうかだけでなく、そこに潜んでいるひとつひとつの低気圧の塊(単体の雷雨セルなど)まで示してくれます。この種の情報は、竜巻の発生に備えている危機管理室から、乱気流を気にしておく必要がある航空管制官まで、たくさんの人たちにとって役立つものとなりうるでしょう。

ただし、解像度が高くなったからといって、従来より精度の高い予報を即提供…というわけにはいかないようです。ここまで読んできてもうお気づきかもしれませんが、GRAFの稼動には、実際の天気を正しく取得したデータが必要となるんです。

Hutchinsonさんによれば、GRAFは全体的に比較的順調に稼働していますが、解像度を3kmから15kmに移行する必要がある嵐の予報にはまだ課題があるようです。エリアをまたいで少しずつ移動する嵐の予報では、アルゴリズムを移行しなければなりませんが、これがまるで"うまくいけばなめらかに踊れる複雑なコンガダンス"といったかんじで難解なのだとか。Hutchinsonさんと彼のチームは、課題解消のためにGRAFモデルをどんどん走らせていて、実際の天気と比較したものと絶賛統合中です。

何百万台ものスマホからデータを拝借

ところで、こうした処理は、大がかりな計算能力なしには遂行が不可能です。GRAFを支えるシステムは、米国エネルギー省(DOE)の保有するスパコン「Summit(サミット)」や「Sierra(シエラ)」並みの、世界最上位クラスの構成(必ずしも高速という意味でなく)で動作しているんです。すべてのデータを処理するために、システムはピーク時3.5PB(ペタバイト)まで割り当て可能なストレージ(64GBのiPhoneおよそ5万5000台分!)を備えています。

なぜこれほどのコンピューティングリソースが必要になるかといいますと、GRAFが世界中の気球や気象観測所から取得する伝統的な形式の気象データに加えて、飛行機から取得する大気データや、The Weather Channelアプリの入った何百万台ものスマホから収集する地上気圧データを利用するからにほかなりません。じつは、ほとんどのスマホには気圧計が内蔵されていて、フィットネストラッカーが登った階段の数を把握するのに使っているのです。

データを差し出す? 現代のジレンマ

スマホの気圧データは嵐についての手がかりとなりますが、気象学者にとっては長いあいだ不可侵領域でした。小さな気圧センサーのネットワークにアクセスすれば、天気予報が改善されるのは目に見えているのですが、もれなくプライバシーの問題がついてきます。ちょうど先週、The Weather Channelアプリがユーザーをあざむいて収集した大量のデータにより利益を得ていたとして、TWCが非難にさらされました。

CESにてIBMは、2019年の後半にこのモデルが立ち上がったあかつきには、スマホのデータを提供するかどうかについてユーザーが選択できるようにすると説明しています。でもそんなことされたら、プライバシーと傘を持っていくべきかの情報、どちらを取るかがユーザーにとってますます悩ましいものになってしまいそうです。

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