はやぶさ2のタッチダウンを「データ中継」で応援! その舞台裏をNHKに聞いてみた

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  • author 西谷茂リチャード
はやぶさ2のタッチダウンを「データ中継」で応援! その舞台裏をNHKに聞いてみた
Image: JAXA,NHK

「カッコいい」が応援になる。

みなさんご存知でしょうか? JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が、いま地球から約3億キロも離れた小惑星リュウグウの付近で頑張っていることを。そしていよいよ、はやぶさ2がリュウグウの表面にタッチダウン(着陸してサンプルを回収)する予定だということを! もう明日ですよ! 2月22日の朝8時ごろですよ!!

でも、祭りはもっと早くから始まります。NHKとJAXAのタッグにより、今日21日の夕方から、はやぶさ2のタッチダウンが「ほぼリアルタイム」で「宇宙データ中継」される予定なんです(時間が変更する可能性あり)。ただし、これはいわゆる「テレビ中継」ではありません(そもそも、はやぶさ2の様子を撮影するカメラがありませんからね)。これは、はやぶさ2から届くデータを元に「スーパーハイビジョンはやぶさ2可視化システム」がすぐさま映像化→配信する、というプロジェクトです。

ん? それはつまり、どゆこと? という疑問も含めてNHKの中の人に聞いてみる機会があったので、このプロジェクトの概要と裏側ちょこっとまとめてみましたよ。そこには、ナイス・テクノロジーと、深いガジェット愛がありました(はやぶさ2もガジェットです!)。

「宇宙データ中継」ってなに?

今回行なわれるはやぶさ2の宇宙データ中継をひとことで説明すると、「はやぶさ2が感じたことをたった30分のラグで再現する疑似ライブ配信」…といった感じになります。

基本的に、はやぶさ2は自身の位置や自転などのデータを常にJAXAに送信しているんですね。でも、それらのデータの数字ばかり映すでのは…あまり味気がありません。

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Image: JAXA,NHK
はやぶさ2がたどる降下のルート。

なのでNHKはまず、はやぶさ2とリュウグウのできるだけ正確CGモデルを、観測データなどにもとづいて制作しました。そしてそれらのCGモデルをはやぶさ2から届くデータ通りに動かすことで、あたかも宇宙で本当に撮影しているかのようなCG映像を、地上でほぼリアルタイムに生成できるようにしたのです。ちょっと回りくどいようにも聞こえますが、そのおかげで、めちゃくちゃカッコいい映像を見ながらはやぶさ2を応援できる!というわけです。うん、これぞガジェット愛。

30分のラグって…「中継」と呼べるの?

「中継」というと、「今起こっていること」という印象が強いですからね。「30分遅れは中継じゃない気が…」という思いも仕方なく。かくいう僕もちょっぴり疑心を抱いていたんですが、コレ、思った以上に「今」でしたよ。

まず約30分あるラグのうち約18分は、はやぶさ2の電波がJAXAに届くまでにかかる時間です。これは物理的な限界なので、誰も18分を下回ることはできません(できたらノーベル賞もの!)。では残りの約12分のラグはというと、JAXAとNHKに時間的な余裕を持たせるためのバッファです。要は、JAXAが余裕を持ってNHKにデータを送れるように、そしてNHKが余裕をもって映像化→配信するための猶予時間ですね。

といっても、12分です…。たった10分程度でデータを映像にするのは、相当な早業。どうやったらそんなことができるの? と聞いてみたらところ、意外にもその答えは「ゲームエンジン」でした。ゲームエンジンには、PCやゲーム機などのマシン上で、プレイヤーの入力に合わせてゲーム画面を描画するという役割があります。今回は、はやぶさ2からのデータをプレイヤーの入力に見立てることで、このシステムで活用していいるんですね。これはナイスな使い方!

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Photo: 西谷茂リチャード
現場で使われていたPCも最新のGPUを積んでいたりと、ハードウェア面でもゲーミングらしさありでした。

さらに個人的に「オォ〜〜」となったのが、星空の映し方でした。本来星はめちゃくちゃ遠いので、目の位置がある程度動いても、星は微動だにしません。ところが、その壮大過ぎるスケールの距離をゲームエンジン内で再現するのは、あまりにも無謀でした…。じゃあ、と採用されたのが「星空の位置を目の位置に合わせて動かせばよい」というエレガント解。月がついてくるように見える現象を、逆手にとったわけです。これは目からウロコですね。

で、ちょっと時間の話に戻しますと「人によるラグは12分程度かぁ。されど…されど12分だよねぇ」 という方もいるかもしれません。でも、地上から地上への(たとえばスポーツなどの)中継でさえ「数秒から10分程度遅らせる」ことがあるらしいので、これは実際、かなりの早さだと思うんです。少なくとも僕は、「激込みなスタジアムで双眼鏡を持って見る」より「多少ラグがあっても家でゴロゴロしながら一等席の視点で見たい」派なので、まったく気になりません(はやぶさ2の宇宙空間に行かせてくれるなら、たとえ激混みでも行きたいですけどね!)。

CG映像で「中継」はおかしくない?

やはり「中継」には「ありのままを映す」という面もありますからね。いくら「今」を映しているとはいえ、カメラで撮ったものではないCG映像を、中継と呼ぶのには違和感を感じちゃいます。だからNHKに聞いてみました。この映像は「ありのまま」なんですか?

結論からいうと……結構ありのまま!

映像には、主に3つのオブジェクトが登場します。はやぶさ2小惑星リュウグウ、そして星空(太陽含む)。

まず、これらのCGモデルやグラフィックは、寸法(大きさなど)や特徴(光や色など)をJAXAのデータに基づいて制作しているので、ここに関しては間違いないでしょう。問題は、それらの見え方です。宇宙は明暗がとても激しい場所で、ダイナミックレンジがマジで半端ありません。なので、明るいものをありのままに映そうすると、暗い箇所が完全に黒つぶれてしまいます。逆も然りで、暗い場所を映したら明るい場所は白飛びしてしまいます。

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Image: JAXA,NHK
この星空も、ありのままに映したら真っ黒だったはず。

この激しい明暗差をわかりやすくするために、登場するオブジェクトたちの明るさを大まかな数字で表していただきました。だいたい一番明るいのははやぶさ2で、これを100とすると、リュウグウは5くらいなんだそうです。そして星空は……0.1以下だそうで…。はやぶさ2と星空には大体4〜5桁倍ほどの明暗差があることに。なので、これをありのままにカメラが撮ったかのように映してしまうと、星空が真っ暗になるか、はやぶさ2が白いシルエットになってしまうわけです。

そこで、NHKではそれぞれのオブジェクトの明るさ(露出・反射率)を、より広いダイナミックレンジに対応しているに「人の目」にどう見えるか、に近づけました(HDRっぽいコンピュテーショナル・フォトグラフィー的なアプローチ)。少なくとも、はやぶさ2とリュウグウの映り方は、かなりそれに近いとのことです。ただし、星空の露出は、結構上げているみたいですね。というのも、人の目は暗い場所なら満点の星空が見えるほど高感度になるのですが、それは暗い場所にいればの場合で、明るいものがその場にあるとたちまち見えなくなってしまいます(瞳孔がしぼむ)。まぁ、はやぶさ2はだいぶ明るいですからね、それに合わせて星空を明るくしている、というわけです。

でもそれ以外だと、物理的にもかなり正確に、ありのままを映しているみたいですよ!

NHKの映像フェチ炸裂した「カッコよさ」への追求

そもそもなぜ、NHKがこのプロジェクトを進めているかというと、「はやぶさ2の冒険を、なるべく多くの人が感動できるようにする」ためなのだそうです(ほとばしるはや2ラブ)。ただしもちろん、そこにはJAXAやはやぶさ2の関係者も含まれるので、映像の正確性は必須でした。そんななかでも、NHKのCGチームは、いかにはやぶさ2をカッコよく見せるかに相当こだわっていましたね。

たとえば、はやぶさ2の高い反射率は、太陽の光を眩いほど反射して「グロー(Glow)」と呼ばれる輝きを放ちます。そのグローをいかにしてカッコよく再現するか検証するために、各色の銀紙を使って実験していたんです。

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映像提供:NHK 開発・CGグループ

アナログですね。こういった凹凸のある表面がどのように光を反射するか検証を重ねることで、どのような影を映すかを絞り込めていったわけです。

でもそれだけじゃありません。はやぶさ2をどのアングル撮ると一番カッコよく見えるかを調べるために、模型で試し撮り、なんていうこともしていました。

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映像提供:NHK 開発・CGグループ

消しゴム・紙・銀紙で、ここまでするとは…もう、映像フェチ確定です。その調子です。

そして、あまりカッコよさには直結しないかも知れませんが、「わかりやすい!」と思ったのがリュウグウまでの距離がわかるメジャーでした。

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Image: JAXA,NHK

なにぶん宇宙では比較対象が少ない、もしくは遠すぎますからね、なかなかはやぶさ2の動きを伝えづらかったのだそう。「宇宙でのカメラワークは難しい」みたいですよ。宇宙カメラマンを目指している方、ここメモです。


こういったNHK×JAXAのタッグによって、僕たちはカッコいい「宇宙データ中継」を見ながらはやぶさ2のタッチダウンを応援できるんです。

ただここに来て、ひとつだけ残念なお知らせがあります。なんと、データ中継はタッチダウンの1時間前までだそうなんです! それ以降は、はやぶさ2からの電波が届かないため、そこからタッチダウンが終わるまでの映像は、JAXAによる推定値をベースとしたCG映像になります。とはいえ、JAXAも相当な精度で検証を重ねているはずなので、予想外がない限りかなーり正確な推定値だと思いますよ。

そして、実際のタッチダウンの成否は……その後のJAXA発表にて、とのこと。んんん〜! もどかしや。でもよいニュースもあって、3月17日放送のNHKスペシャル「スペース・スペクタクル」では、このタッチダウン中のデータも反映した映像も見れるそうです。それも、ウェブ中継以上のフルHDクオリティーで!

Source: NHK
Reference: ファン!ファン!JAXA!学研サイエンスキッズ

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