トヨタの向こうを張ったTeslaの赤字が止まらない

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  • author satomi
トヨタの向こうを張ったTeslaの赤字が止まらない
Image: Tesla via Statistica

Tesla(テスラ)のキャッシュバーンが止まりません。

高い不良率の噂が後を絶たず、幹部が続々と辞め、町工場に不良パーツが山積みの写真が報じられ、車1台売るごとに出る赤字は150万円以上とも200万円以上とも見積もられ、Teslaは否定を繰り返しています。

モデルYのティーザー動画を公開してバズを盛り上げたりもしていますが、モデルYにしても「工場はモデル3でパンパンだ」(CEO)と言いつつ「24カ月で生産スタート」(同)と発表しちゃって、どこで製造するのだ!? 自動運転トラックsemiだってあるのに!と言われてますよ。

先日のフジツボの記事にもあるように、もはやCEOが自社株買いしても誰もインサイダー取引と騒がないほど、好材料がないのが今のTeslaです。相変わらず人気はあるので見えづらいですけど、モデル3の本格量産化は3月末、6月末と何度も延期を繰り返しており、みなさすがに変だと気づきはじめています。「生産地獄」の終わりは当分見えそうもありません。どうしてこんなことになっちゃったんでしょうね?

欠陥の山?

その答えを知る手がかりは、昨年11月、ロイターが報じた現役社員と元社員総勢9名による匿名リークで出てきました。「組み立て後の品質検査でモデルSとXの9割以上に欠陥が見つかる」という信じられないような内部データです。世界最高の品質管理のトヨタなどは1割未満のところ、Teslaは組立ラインを止めると1分1秒が赤字という圧力のせいで、たとえ在庫が間に合わなくてもラインは止められなくてフロントガラスやバンパーなんかの部品が欠けたまま車が流れてきたりもするんだとか。修理待ちの車を停める「中庭」と呼ばれる駐車場にはひどい時で2,000台以上も欠陥車がたまっているのだといい(Tesla社は否定)、「組立後のやり直しがとにかく大変で、そこで赤字が出ている」と元現場監督の社員は語っています。思わず何度も読み返して、原文も確かめてしまいましたが、間違いありません。そう書いています。というか原文なんて「作って、あとで直す」というタイトルがついてしまってますよ…。

この内部告発はTeslaオーナーのフォーラムでもかなり話題になりました。実際アラインメントがおかしい車の写真や、「塗装をちょちょっと直すものまで含まれるかもしれないし、不良率1割の聞き間違いでは?」という擁護の声、「四半期決算前は工場フル稼働の台数稼ぎで不良率がすごいのは公然の秘密」、「2012年のモデルSより2016年のモデルSの方が確実に質は落ちている。ハッチが閉まらないまま納車された。納車前に誰も開け閉めしてなぜ確かめないんだろうね?」などのコメントがついています。

今年3月半ばにはCNBCも「フリーモント工場の部品の4割は欠陥品」という現役エンジニアの匿名リークを伝えました。ISOの品質管理基準にあまり詳しくない人が、業界標準の差異検証もなしに、通常1年以上かかるサプライヤー審査をもっと短期で済ませて契約し、テストをいろいろはしょっているのが原因とのことです。

会社をよく思ってない社員のリークかもしれませんけど、この報道と時を同じくしてTeslaではモデル3の最新情報発表を前に最高会計責任者と財務部長が相次ぎ辞めています。

さらに4月にはCNBCが、周辺の部品工場JL Precisionに補修待ちのTesla部品が山積みになっている写真を続報で公開しました。Tesla社は、輸送コストを節約するために近場の業者さんに微調整を任せるのはよくあることだと説明していますけど、車のドアが未開封の段ボールのまま修理のために町工場に直行というのは、なかなか不安を煽る光景ですよ…。

トヨタは自働化、テスラは自動化

不良率の噂が広がるにつれ、米国ではTeslaとトヨタを比べる声も出てきました。今のTeslaの工場がトヨタの工場だった場所だからムリもありません。正確にはGMと夢の日米合弁で、成績最悪の工場を任されたトヨタが、工員の士気を高めて奇跡の成功をもたらし、アメリカ人の中に「KAIZEN」という言葉を刻みつけたNUMMI工場。惜しまれながら工場が閉鎖となって明かりが消えていたところに、Teslaが新星爆発のごとく現れ、破格値で譲り受けて使っています。 最初はトヨタもTeslaに出資していたのですが、やがて両社は哲学の違いなどから袂を分かち、今にいたります。

Teslaはトヨタの燃料電池自動車も完全否定、ニンベンがつく「自働化」も完全否定で、ロボット支配の「自動化」を目指す企業ですからね…。合うわけがないんです。

Video: Elon Musk Viral Videos / YouTube
初めてTVカメラの取材が許されたフリーモント工場(今年4月、CBS)

マスクは工場がプロダクト

イーロン・マスクが目指しているのは車をつくることですらないという話もありますしね…。「すべて内製の垂直統合型の工場」が、彼の夢見るプロダクト。鉄やら何やらをぶち込むと中でロボットがキンコンカンコンやって車にして出してくる。農村生まれのヘンリー・フォードが「農民でも乗れる安い車を大量生産する」ことを夢見て20世紀初頭に建設した世界最大のメガ工場リバールージュを21世紀に再現することが自らの宿命だと思っており、また、公言してもいます。

(パナソニックと共同運営の)ギガファクトリーは宇宙人のドレッドノート型戦艦だ。超高速の瓶詰、缶詰工場みたいなもので生産ラインに人は入らない。人が入ると人間のペースに落ちてしまうから。人はまだまだたくさんいるが、みなマシンの管理、アップグレード、修理が仕事であって、生産ラインそれ自体は無人になる。ーイーロン・マスクCEO、2016年第2四半期決算発表にて


長期的に見てTeslaの競争の主力は車ではない。工場だ。われわれは工場を製品化する。モデルTが製品なのではない。リバールージュが製品なのだ。すばらしい製品もつくるが、工場こそが長期に渡って競争優位性を保てる製品になるだろう。―イーロン・マスクCEO、2018年2月の決算発表にて

しかしクラウドベースの株投資情報Seeking Alphaに掲載されたトヨタとTeslaの比較検証記事にもあるように、地球上のクルマの半分がT型フォードの黒ワンモデルだったフォードの時代と今とでは複雑性が違います。モデルチェンジ、カスタマイズ、アップグレード。そのたびに生産ライン全停止という今のようなやり方を続けていたのでは、組立後の修理やらサービス料やらがかさんで黒字転換は永久に望めません。 「今は馬が競合ではない」というのも本当にそのとおりで、Teslaがもたもたしている間にジャガー、ベンツ、ポルシェ、アウディ、フォードもだんだん本気を出してきています。結局Teslaはスタートダッシュを盛り上げたマッチポンプで終わってしまうんでしょうか…。

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Image: SeekingAlpha
ちなみに2018年1-3月期は100円のものを売るのに145円かかっていました。赤は売上に占めるサービス料の割合

空売り王、降臨

Video: CNBC/YouTube

「2019年末までにTesla株は今の300ドルから84ドルまで落ちる」というアナリスト(Vertical Groupのゴードン・ジョンソン氏)もいれば、「Space Xを車でやれば4,000ドルまで上がる」というアナリスト(Arkのキャサリン・ウッドCEO)もいて、ベアとブルの予想の振れ幅がすごいのもTeslaの特徴です。

そんな中、Teslaにとって一番厄介なのは上の動画の御方ではないでしょうか。そう、エンロン不正会計を見抜いた空売り王、ジム・チェノス。彼が「Teslaは自動車業界の標準と会計規則が違う。まるでエンロンだ」と言っているのです。まあ、Alibabaのこともエンロンだと呼んでいるので、落ちて欲しい株を順繰りにエンロンと呪詛しているのかもしれませんが、動画では1年半で辞めた経営陣が数十人にのぼり、つい先日も元経営幹部11人が「マスクにモデル3の生産納期は絶対ムリだと言ったのに、マスクはそれを無視して納期を発表した」としてTeslaを提訴したと言っています。周りの司会者も「まるで沈没船のねずみ」のような不吉な兆候だと言っています。

下記のウォールストリートジャーナルのチャーリー・グラント記者も先月の対談でこう言っていますよ(20:30~)。

司会: この会社が黒字転換する道は何だと思いますか?

記者: 何ひとつ思い浮かばないですね

司会: ではなぜ株が落ちないんでしょ?

記者: いや、落ちはじめていますよ


司会: […]独自特許、自動運転特許すら持っていないですからね。それなのにハイパーループとか、NYと西海岸を数時間で結ぶとか、奇想天外な構想を次から次へと出してきてベアマーケットを完全に味方につけるマスクのショーマンシップは天才と言っていいでしょう


記者: アメリカの好感度ランキングでもトップ5に入っちゃってますからね。[…]収支も最初は健全でした。魔が差したとしか思えないのが、あのSolar City買収です。赤字経営のソーラーパネルメーカーをマスクが筆頭株主だというだけで買って大きな借金を抱えてしまった。今年Q1の決算はまだだけど、借金はまた膨らんでいるかもね(←予想的中。上図参照)

司会: 最後はどうなるんですか?

記者: モデル3を10万台つくると約束したのに2,000台しかつくれないようなことを何度も繰り返していれば、いずれは誰も信用しなくなり、信用を失ったら、あとはあっという間です。ソフトバンクとかテンセントとかに泣きつくこともできますけど、それにしたって新しい収入源は必要

司会: 出口、見えませんね…

記者: 「倒産」というと聞こえは悪いけど、少なくともリセットして再スタートはできます

司会: 買収は? Appleとか…

記者: Appleの自動運転開発がどのほどのものかは極秘なんでわからないけど。ただ自動運転は史上最大の「流行り」かもしれないというのがネックで、ネバダ州知事もあれだけ公道運転を歓迎していたのに、規制が入ると分かった途端シャットアウトでした。Teslaはブランドバリューはあるので買い手は出るとは思います

いやあ…そんなにひどいのか…。

反省するも一瞬で終わる

こんな微妙な時期なのにイーロン・マスクCEOは4月1日、「Teslaが倒産寸前だ」とツイートしたところ全然エイプリルフールだと思ってもらえなくて説明に苦慮するという一幕を演じています。

上記の工場視察では「ロボットに注ぎ込みすぎた。これからはもっと人を入れる」と神妙に語り、工場内に寝泊まりしている会議室のソファを案内し、ツイートでも「Teslaの過剰なオートメーション化は間違いだった。自分の間違いだ。人間は過小評価されている」と反省の色をにじませました。

よしよし、マスクもやっと自分の間違いに気づいたようだし、これで一気に量産化だね!パナソニックのためにもがんばってくれ!と思ったら、5月の決算発表では「人力の採用は一部の工程の一時的措置であり、その後は完全自動化に戻します」とまたまた張り切っているではないですか…。Teslaの地獄は当分続きそうです。

Video: Tesla/YouTube
モデルYのティーザー。動画はカッコいいのだが…


Images: Statistica, SeekingAlpha
Sources: US News & World Report,Business Insider,CNBC-1, 2, Reuters, Gazoo, @elonmusk, Bloomberg

(satomi)

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