次世代楽器メーカーROLI社のCEOにインタビュー:「私たちのビジョンは、はじめの一歩からプロのように高度な演奏ができるデジタル楽器をつくること」

  • author K.Yoshioka
次世代楽器メーカーROLI社のCEOにインタビュー:「私たちのビジョンは、はじめの一歩からプロのように高度な演奏ができるデジタル楽器をつくること」
Photo: 照沼健太

誰もが「音楽」を奏でられる未来のために。

五次元タッチキーボード「Seaboard」やモジュール式楽器デバイス「BLOCKS」など、一般的な楽器とは一線を画す機能、デザインの製品を続々と生み出す次世代楽器メーカーROLI社。最近ではチーフクリエイティブオフィサーにアーティストのファレル・ウィリアムスが就任したことも話題となりました。

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Image: ROLI
右から「BLOCKS」シリーズ、「Seaboard RISE 25」、「Seaboard RISE 49」

そんなROLI社ですが、実は1カ月前の1月16日(火)、CEOのローランド・ラムさんとファレル・ウィリアムス、ROLI社専属アーティストのPARISIが来日。Apple 銀座にてふたりが登壇するイベント「Music Lab: ファレル・ウィリアムスに学ぶ、創造力の源」が行なわれ、ファレル・ウィリアムスをメインに音楽の創造性について語られました。

そこで今回はローランド・ラムさんにメールインタビューを行ない、ROLI社の革新的な製品が生まれるまでの様子、そしてその背景にある思想・信念など、イベントでは聞けなかったお話を伺いました。来日時に見せてもらったPARISIによる、Seaboard、BLOCKSを使ったデモ演奏動画も合わせてご覧ください。

また記事の後半ではApple Storeで行なわれたイベントの様子も紹介しています。


──製品を作るときにインスピレーションの源となるのはどんなことでしょうか。

ローランド・ラム(以下、ラム):新しく作る製品は、今ある問題を解決するためのものだと考えています。私は身近にある問題を解決することからスタートしました。たとえばSeaboardのもとになったアイデアは、私がピアノを弾いていたときにもっといろいろな表現ができないか(歌うようなビブラートや、ギターのようなスライド)と考えたことがきっかけになっています。

──ROLI社ではどのようなアプローチで製品を作っているのでしょうか。企画から製作を完成させるまでの流れを教えてください。

ラム:ROLIではさまざまな試行錯誤を大切にしています。我々にとって実験とは、いろいろなアイデアを試すことを楽しむことであり、多くの失敗をすることです。ROLIでは、毎月HACK DAYという社員全員が自由気ままにアイデアを出し合ってそれを試す日があるのですが、結果としてそこで出てきた多くのアイデアが製品になっています。もちろん市場調査やデザインの検討などの一般的なプロセスも全てありますが、それらは我々にとってはガイドラインでしかありません。

革新的なアイデアを製品にするためのもっとも大きな原動力は、比較的少人数のグループの中で、工業デザイナーやプログラマー、素材を扱う科学者、電子工学の技術者からミュージシャンまで、多種多様な人材がともに製品作りに取り組んでいることでしょう。こうした異なる才能のぶつかり合いが、驚くようなアイデアに結びつくことがあるのです。

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube
ROLI社の日本人デザイナーYuta Sugawaraさんによるレクチャーのもと、BLOCKSを使って曲を作ってみました

──ROLI社の製品を触らせていただきましたが、操作性はもちろん、触ったときの感触など、製品のデザイン面でも楽しませていただきました。手になじみやすいデザインはどういった考えで作っていったのでしょうか。

ラム:とても嬉しい感想、ありがとうございます。

私にとってミュージシャンとは、指で触れたり体を動かしたりするジェスチャーを音に置き換えることができるということに尽きます。私がピアノを弾くときは、いつも目を閉じて弾いているのですが、それは音楽を奏でることをより強く感じるためです。目を閉じることで、触覚が研ぎ澄まされ、それが音に変換されていく過程をより強く、鮮明に感じることができるのです。製品のデザインにおいて、触ったときの感触やジェスチャーは見落とされがちです。私たちは、そうした素材や形から感じる触覚に訴える部分を、すべてのデザインで大切にするように努めています。実際に研究開発の多くの時間を、触覚をはじめとする感覚と音楽性の両立に費やしています。

──ROLI社の製品は楽曲の制作をクリエイティビティという点でどのように変えると思いますか?

ラム:従来のようなON/OFFとは異なる、マルチ・ディメンショナルなタッチは、単に音楽的な可能性を切り拓くだけでなく、面白い偶然を生み出す効果があります。

これは、作曲家のハンス・ジマーがSeaboardを最初に弾いたときに言った言葉です。マルチ・ディメンショナルなタッチによって、これまで無意識に行なっていた習慣的な指の動きと異なった動きが求められるために、指の動きだけでなく表現そのものを見直すことになります。そのプロセスがさらに創造力を刺激するのです。加えてBLOCKSの持つモジュラリティ(拡張性)は、自分の思いつくままに組み合わせることができるため、アイデアをすぐに試行錯誤できるという点でもよりクリエイティブな作業を可能にします。

──音楽を作ることをもっと手軽に、民主的にしたいとおっしゃっていました。 たとえばインスタグラムが普及したことで「写真」のあり方は以前と変わったように思います。もし音楽を簡単に作れるサービスが普及した場合、音楽自体はどういった存在になるのでしょうか?

ラム:インスタグラムはわかりやすい例だと思います。以前は高価なカメラを買い揃え、使い方を勉強し、暗室で現像する方法を習得して、初めて自分の撮影した写真にさまざまな加工がすることができたのです。今ではそれが、無料アプリとスマートフォンで可能になりました。そして何十億という人が写真をシェアしているのです。

音楽の場合は、そこまで単純ではありません。音楽には、写真でいうところのカメラを向けてシャッターを切る動作よりも、もう少し複雑な作業が必要です。カメラで写真を撮るように簡単に演奏できる楽器はありません。しかしBLOCKSはインスタグラムと共通の要素がたくさんあります。もしかしたらインスタグラムのように、ある日突然音楽が手軽に演奏できるようになるかもしれません。なぜなら、BLOCKSであれば、誰もが好きなときに好きなところでインスタグラムで写真をアップするように音楽を演奏できます。必要なのは携帯電話だけですから。

写真がインスタグラムのようになるまで、30年以上掛かりました。音楽はそのプロセスを歩み始めたにすぎません。

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube
PARISIのおふたりによる、BLOCKSとSeaboardを使ったセッションの様子

──先日PARISIのおふたりにデモを見せてもらったときに、ROLI社の製品はアーティストのテクニカルさが合わさることで、その良さが最大限に生かされるよ うに感じました。ROLI社の製品は「音楽を誰でも作れる民主的になものにしたい」という想いがあると思いますが、アーティストにはテクニカルさが求められることもあるかと思います。手軽に音楽を作れることとアーティストに必要とされるテクニカルさのバランス感についてはどのようにお考えでしょうか。

ラム:私たちのビジョンは、はじめの一歩からプロのように高度な演奏ができるデジタル楽器をつくることです。ギターの場合、数時間もあればコードをいくつか弾けるようにはなっても、ジミ・ヘンドリクスのように弾けるようになるには、長い時間の練習と才能が必要です。私たちは、その過程を劇的に簡単にしながら、かつ表現力や創造性を損なわない、もしくはより発揮できるよ うな楽器を創り出したいのです。

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube
PARISIのひとり、マルコさんがSeaboardを使ってジミ・ヘンドリックスのギターを再現する様子

PARISIは、ひとつの例にしか過ぎません。マルコは世界一のSeaboardプレー ヤーであり、音楽的表現力という点で、世界でも有数の存在であることは確かです。

──ファレルさんはCCOとしてはどういう動きをされるのでしょうか。たとえば、新製品を作るにあたってどのような関わり方をするのかなど、教えてください。

ラム:製品開発において、ファレルは率直な意見をしてくれます。彼は、本質に迫らない表面的なアイデアを感覚的に見つけ出し、ノーというのがとても上手です。彼のそうしたアプローチは、私たちのクリエイティブのプロセスと能力に幅と深みを持たせてくれています。同時にファレルは私自身の感覚を、他のどのような調査や分析モデルよりも信頼してくれています。

──Apple 銀座でのイベント時に、ローランドさんは日本に住んでいたことがあり、そのときに体験した書道の経験がROLI社の製品に生かされているとお話されていました。またローランドさんは僧侶の元で滞在されていたとのことでしたが、精神面で製品に影響を与えた部分はありますか?

ラム:ええ。Seaboardを弾いたときの指の動きは、書道の基本的な筆運びにインスパイアされたものです。

また、いわゆる「わび・さび」にも影響を受けています。私にとって「わび・ さび」とは日常の中にある不完全さや偶然を自然のものとして受け入れることです。演奏される音楽の持つひとつひとつの魅力を最大限に引き立てる、研ぎ澄まされた美しさを製品に持たせたいのです。それはある種のミニマリズムと言ってもいいかもしれません。木の木目や岩のひびを味わうように、 奏でられた音楽を感じることができるような製品を創りたいといつも思っています。


インタビューでは自身が楽器を弾くことについて言及していましたが、実はラムさんはミュージシャンとしての活動経験もあります。これらの経験はROLI社の思想におおきく関わっているように感じました。

というのも、表現活動を行なうときにぶち当たってしまうのが、「創造する力」とそれを「実現する力」の間に存在するです。自分の思うように表現できない、というのはハードルであり、表現自体をストレスに変えてしまう可能性があります。もちろん、苦労して表現するからこそいいものができる、というのも事実ですが、それは表現できる人・機会をグッと下げてしまいます。

ラムさんは自身が感じた「表現することの素晴らしさ」を伝えるためのアプローチとして、初心者から上級者までが「自由」に使える製品を生み出したように感じました。

最後に、1月16日(火)にApple 銀座で行なわれていたローランド・ラムさんとファレル・ウィリアムスが登壇するイベント「Music Lab: ファレル・ウィリアムスに学ぶ、創造力の源」の様子を写真でご覧ください。

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Photo: 照沼健太


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Photo: 照沼健太


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Photo: 照沼健太


Photo: 照沼健太
Source: ROLI, mi7

(K.Yoshioka)

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